相続とは、財産やそれに属する様々なものを引き継ぐこと。家族がいれば、いずれ誰もが経験することですが、 いざ当事者になると困ってしまう方が多いのが現状です。
例えば、財産目録をまとめた際に「自宅はあるけど、お金がない」という問題を抱える人は少なくありません。現実問題として、遺産の分け方で問題が生じやすいのは、単に分割できない財産。その「代表選手」が土地・建物などの不動産です。
この記事では、土地や不動産を相続することになったときに困らないように、アクティブシニアのライフサポートを行う株式会社ユメコム代表の橋本珠美が、豊富な経験や事例をもとにアドバイスを申し上げます。
目次
相続で一番困る「遺産は自宅不動産だけ」
家を相続することになったら
不動産名義変更の流れ
不動産名義変更に必要な書類
家の相続にかかる相続税はいくら?
まとめ
相続で一番困る「遺産は自宅不動産だけ」
「自宅はあるけどお金はない」というケースでは、現実の問題として自宅はどう処分されるのでしょうか。遺言書がない場合、次の3つの方法が考えられます。
1:建物を壊して更地にして、土地だけを等しい価値になるように分筆、兄弟がそれぞれで引き継ぐ。
2:兄弟で不動産を共有して相続し、売却してそのお金を分ける。または、そのまま不動産を貸して、家賃を分ける。
3:兄(または姉)か弟(または妹)が単独で不動産を取得し、その代わりに対価として現金をもう一方に支払う。
兄弟が、それぞれ自宅を持っている場合は比較的スムーズですが、兄弟の誰かが親と同居していた場合は簡単にはいきません。 「住み慣れた我が家」という思い入れや、 生前から親の家計と同居人の家計がきちんと分けられていないなどのケースも少なくありません。
トラブル回避の方法は?
遺産が自宅のみだった場合、残された家族が揉めないように、事前に備えるべきことを解説します。
同居の家計は分けて管理
普段から親の家計と同居の子の家族の家計を、きちんと分けて管理することです。親が自由にお金を使える状態を作っておき、きちんとした使途の明細記録は付けておきましょう。
親が元気なうちに遺言書を
不動産を一旦兄弟で平等に相続してしまうと、売却するにも、他人に貸すにも、自分ひとりだけでは決められず、共有者の協力が必要になります。親が同居の子に家を相続させたいなら、遺言書を作成し、もう一方の子には別の配慮をしておくのがよいでしょう。遺産は自宅だけであっても、事前にきちんと考えて備えておくことが必要なのです。
家を相続することになったら
被相続人が不動産を所有していた場合、不動産の名義を被相続人から相続人へ書き換える手続きを行います。遺産分割協議書において、その不動産を誰が取得するか合意しておく必要があるからです。不動産は時効取得が可能となっているため、一定期間の間、他人に占有されていると、その他人がどういうつもりで占有していたかに関わらず、他人の財産となってしまうことがあります。
自分の土地であってもトラブルや事件に巻き込まれるケースもありますので、相続不動産の名義変更は速やかに行いましょう。
不動産名義変更の流れ
不動産の名義変更を行うための準備や手続きなどをご紹介します。
1:遺産分割協議を行い、誰がその不動産を取得するか相続人全員で合意する。
2:不動産の名義変更(登記)に必要な書類を収集する。
3:登記申請書を作成し、管轄の法務局に申請を行う。
4:登記完了したら、法務局より登記識別情報を受け取る。
不動産名義変更に必要な書類
相続の方法により、必要な書類が変わります。必要書類は地域によって異なる場合があるため、不動産を管轄する法務局に確認しましょう。
「法定相続人がひとりまたは法定相続分で相続する場合」と「遺産分割協議で決めた割合で相続をする場合」に分けて、必要な書類をご紹介します。下記の書類を登記申請書と共に管轄の法務局へ申請します。なお、登記申請をする際、登録免許税の納付が必要となります。
※登録免許税=不動産の評価額×0.4%
法定相続人がひとりまたは法定相続分で相続する場合
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・被相続人の住民票の除票
・法定相続人の戸籍謄本
・法定相続人の住民票
・相続する不動産の固定資産税評価証明書
遺産分割協議で決めた割合で相続をする場合
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・被相続人の住民票の除票
・法定相続人の戸籍謄本
・法定相続人の住民票
・相続する不動産の固定資産税評価証明書
・法定相続人の印鑑証明書
・遺産分割協議書
家の相続にかかる相続税はいくら?
家(不動産)の相続については、そのものの評価額を計算しなければなりません。不動産の土地の評価額は、国税庁が定めた路線価あるいは自治体が定めた固定資産税評価額に基づいて計算します。
□市街地
評価方法:路線価方式(路線価を使って評価)
□市街地以外
評価方法: 倍率方式(固定資産税評価額に一定の倍率をかける)
路線価方式で評価する場合は、土地に接している道路の数や土地の形状によって価格の補正が必要です。これらの補正は、税理士によっても見解が分かれるほど難しい場合があるため、不動産の評価については、相続税を専門にしている税理士に相談することをおすすめします。その評価額の合計額から、相続税の基礎控除額を差し引きましょう。
【基礎控除額の計算式 】
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
相続人の数 | 基礎控除額 |
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
遺産総額が相続税の基礎控除額を超える場合は、遺産総額から基礎控除額を引いた、残りの金額に対して課税されます。
相続税の計算方法
相続税の課税財産を法定相続割合で分割したら、次は「各相続人の税額」を求めます。
【各相続人の税額の計算方法 】
相続人ごとの相続税の課税財産×税率-控除額
相続税率や控除は、下記の「相続税の速算表 (平成27年1月1日以降発生の相続) 」を使うと便利です。
法定相続分に応ずる取得金額 (基礎控除控除後) | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参考:相続税の税率|国税庁
相続人別の相続税を全て合算し、総額を計算します。ここで算出される金額が、被相続人の相続財産に課税される「家族全体の相続税」となります。
相続した家を売却した場合は?
兄弟で共有して相続した不動産を売却し、お金を分けた場合も、その売却金額により相続税がかかります。
相続税が払えない場合はどうしたらいい?
相続財産が不動産のみの場合、不動産を相続しても、相続税を支払う現金がない場合があります。その場合は下記の方法で支払うことができます。
延納 :分割払い
相続税額が10万円を超え、金銭納付が困難である事由があるなどの条件を満たした場合には、申請書及び延納手続き関係書類を提出することにより、年賦(年払い)で納付することができます。
なお、延納する相続税額に対しては利子税がかかります。また、延納税額に相当する担保を提供する必要がありますよ。
物納:現金ではなく物で支払う
相続財産そのもの(不動産等)をもって納める納税方法です。物納に充てることが出来る財産については、優先順位が設けられています。被相続人から相続したものであれば、何でも物納に充てることができるという訳ではありません。また、相続人が保有していた財産を物納に充てることはできません。
相続税に付帯する加算税、利子税、延滞税は物納の対象外となります。相続税は現金での納税を原則としているため、物納としてモノを納めるには、現金がないことを証明し、かつ物納財産に価値あるものとして認められる必要があるため、なかなか難しいのが現実です。
延納、物納ともに、納税者の申請により税務署に許可を受ける必要があります。
まとめ
いかがでしたか? 実際に家を相続した場合の不動産名義変更の流れ、家の相続にかかる相続税の計算方法等を解説してきました。
「遺産が自宅不動産だけ」だとわかっている場合には、生前に遺言書を残しておくことで、要らぬトラブルを回避することができることでしょう。この記事を読んで思い当たったことのある方は、いざという時に困らないように、家族での話し合いの機会を持ってみてはいかがでしょうか。
●構成・編集/ 末原美裕・ 内藤知夏(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/橋本 珠美(はしもと たまみ)
2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。
株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。
個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)