空前の人手不足が続く中、企業が“できる人財”を採用することは困難な状況になっています。そこで、日本マクドナルドの「ハンバーガー大学」で学長や、「ユニクロ大学」部長を務めた 有本 均氏の著書『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』から、採用した人をできる人財に育てる方法を紹介します。

文 /有本 均

評価は人財育成にダイレクトにつながる

グローイング・サイクルについて説明しましたが、育成の50%は「教育」で、50%が「評価」というのが私の考えです。評価という見返りがなければ、人は仕事をしません。しません、が言い過ぎであるなら、する気になりません、と言い換えましょう。中には、「たとえ評価されなくても、この仕事が好きだから続けます」という人もいるかもしれません。しかし、それは少数派ではないでしょうか。少なくとも、そのよう稀有な姿勢に、期待するようではいけません。

人は、いい評価をされたら、もっと頑張ろうと思うでしょうし、評価が悪ければ、次は挽回しよう、と考えるものです。そのような意味で、評価とは、人財育成にダイレクトにつながるのです。

これほどまでに評価が大事なのは、低成長の経済とも関係があります。日本が経済成長をしていたときには、評価がなくても給料が上がっていくので、社員も意識をしなかったかもしれません。しかし、バブル崩壊後、給料をどんどん上げていけなくなった現在、頑張って成果を上げた人と、そうではない人との間に給料の差が出てくる。その差の理由が、明確に本人たちに伝わらないと不満が出ます。

成果は大事ですが、普段の仕事ぶりを見ていくことも大事です。行動評価、人間性の部分を磨くような評価制度でないと、低成長の時代には支持されないのではないでしょうか。

これに対して、「数字さえ上げていればいいじゃないか」という意見が出てくるかもしれません。しかし、売上は外的要因も受けますし、運不運が反映する場合がありますから、納得性が低い場合もあります。もちろん業績は大事ですが、現場は、チームの中での信頼関係も大事です。長い目で見たら、そちらの方が重要だということもあり得ます。

ただし、こうしたことは数値化できない難しさがあります。また、人間のやることですから、甘い辛いや、好き嫌いも入ってくる。それを前提として、会社は評価を考える必要があります。そんなに面倒なことはできない、やらない、という会社もあるかもしれませんが、それをやらないと、その人の成長にも会社の成長にもつながりません。この評価の基準自体はアバウトな方がいいでしょう。あまり精緻な評価基準を作っても、評価者の負荷を上げるだけです。それより、基準はアバウトにして、一人のマネージャーに委ねることなく、「評価会議」によって評価を共有することがお勧めです。

人財育成につながる評価項目を作る

会社が、働く人の評価に、どう取り組むか。そこでは、経営者の姿勢が問われます。どういう目的で評価をするか。それは人財育成のためである、と目標を絞って評価することが必要でしょう。

私は、「評価を上げるために頑張る」ということを否定してはいけない、と考えています。評価されないことは全然やらないんだよね、と愚痴を言うのは間違いです。むしろ、評価されないことはしないのが当たり前だと思うのです。その業務を、本当にちゃんとやってほしいなら、評価項目に入れるべきでしょう。

例えば、「お店をきれいにすれば評価が上がるんだな」とわかれば、頑張って店をきれいにするでしょう。そのように、会社がやってもらいたいことを意識して評価項目を作ることが大事です。命令だけでは人は動きません。見返りがなければやらないのです。

マクドナルドとユニクロは、全員がとても評価を意識しています。評価を上げるために頑張る、という正しい姿で仕事に取り組んでいるのです。そこには、人の善意に期待してはいけない、という思想があるのだと思います。もちろん、人には教えられなくてもできることは、たくさんあるでしょう。ただ、どこまでできるかは人によって違います。

ときに中堅やベテラン社員は、「そんなこと教えなくてもできるよな」という思いを若手に対して抱きがちです。でも、できないということは、それを教えられていないから、というケースは少なくありません。特に最近は、親や先生が教えるべきことが多くなっており、すべてに手が回りません。「最近の新人は、固定電話を取れないんだよな」などと年長者は言いますが、若い人はみんな携帯電話やスマホで育ってきたのですから、無理もありません。あらためて教えてあげればいいだけのことです。

評価項目については、会社によって、組織によって重視するべきポイントに違いがあるはずです。業種による特性もあるでしょうし、企業文化によってもウエイトが変わってきます。ただ、大原則として、(1)社員の成長に資すること、(2)社員にやりがいを持たせること、(3)長く働きたいと思ってもらうこと、この3点をふまえて設定することが重要です。


有本 均(ありもと・ひとし)
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 代表取締役会長、グローイング・アカデミー学長。1956年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年生からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年、日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、マクドナルドの教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長に就任。2003年、株式会 社ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。その後、株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役など、外食・サービス 業の代表、役員を歴任する。2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。 日本マクドナルド、ユニクロ等を経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かし、世界中のサービス業の発展を目指す。

『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』
有本 均 著 ダイヤモンド社

           

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