漫画家のいしかわじゅんさんと聡子さん夫妻は、世間的には年の差婚。年齢差を感じないふたりの絶妙な仲睦まじさの秘訣を聞いた。

いしかわじゅんさん(漫画家・70歳) 妻・聡子さん

妻の聡子さんはフリーランスの編集者、ライター。いしかわ家の家事全般を担当している。コーヒーを淹れるのだけは夫の役目。

「新聞の漫画って、本当に自分を律することができる作家さんにしか無理だと思いました。この6年半あまり見ていて。何が大変って、続ける大変さ。空っぽにならずに続ける大変さですね。だけど家族がいなかったら、あの漫画は辛かったよね、って押しつけがましく言ってます」(笑)

妻の聡子さんはそう語る。

夫は漫画家のいしかわじゅんさん。毎日新聞朝刊に連載中の4コマ漫画、『桜田です!』は既に2000回を超える。7年近くの歳月にわたり毎日一本の漫画を描き続けるのは、並大抵のことではないはずだ。だからそれは毎日の艱難辛苦を同じ屋根の下で見続けた妻の正直な感慨だと思う。もっとも妻の賛辞を聞くいしかわさんは、少し困ったような顔をしている。

「まあ……、独り者だったらネタには困ったかもしれないな」

夫がそう語るのは、その4コマが家族の漫画だから。妻と夫、彼らのふたりの子どもと猫1匹の家族の暮らしが題材なのだ。

「家族の生活にヒントを探し続ける日々なので。行き詰まると、なんかネタないって、妻に聞くことは確かにある。時々ね」(笑)

2階の広々とした仕事場は漫画を中心とする膨大な書籍で埋まっている。アイディアを練る散歩の時間以外はここで執筆に専念する。

妻に運動を仕込んでます

妻のおかげと素直に感謝しないのは世代のせいか。その一言を言わせたくて、結婚して良かったことを尋ねると、お茶を濁した。

「具体的にこれっていうのはないなあ。この家はひとり暮らし用に建てた。1階は居間と客間、2階は寝室と仕事場。その客間が妻の仕事場になった。それがちょっと予定外で困ったくらい」(笑)

妻の聡子さんはフリーランスのライター、編集者として活躍している。

「結婚して、食事は格段に美味しくなった。かといって、結婚しなかったら生活が乱れていたとは思えないんだよな。健康を考えた食事をしてたし。運動もずっと続けてる。結婚してからは、妻にスポーツを仕込んで一緒に遊んでます」

妻もそれは認める。

「私は運動嫌いなんだけど、スクーバダイビングの免許まで取らされて(笑)、結婚して泳げるようになりました。テニススクールにも通うようになった。40歳過ぎてもスポーツが楽しめるのは夫のおかげですね。あれ、結婚して良かったのは私だけ?」(笑)

そんなことはない。それはふたりが2匹の猫と暮らす、木の香りのするその仕事場兼自宅の居心地の良さが、雄弁に語っている。

自分の横で生きている誰か

「漫画家の生活は、架空の生活とでも言えばいいか。普通の日常生活がない。漫画は時間がかかるんです。短編を一本書くにも、小説と漫画は時間が何倍も違う。漫画はシナリオ作って、コマ割り、下書きして、ペン入れして、仕上げして……。同じ工程を何度も繰り返す。ちょっと売れると、毎日仕事しかしない。人生99%仕事。寝ている以外は延々仕事をしている」

漫画家は普通の生活ができないから、独りだと感覚が普通ではなくなるといしかわさんは言う。

「だから自分の横で誰かがちゃんと生きてくれているのは、助けになる。癒してくれると言うとベタだけど。家で誰かが待ってくれているのは、なかなかいいもんです。犬も飼いたかったけど散歩が大変だから、猫を飼ったんです」

妻のことを言っていると思っていたら、猫の話になっていた。結婚する少し前、猫を飼ったのだそうだ。猫の話になると饒舌だ。

「猫はマイペースで、人間に合わせてくれない。こっちが意識して合わせなきゃいけないから、独り暮らしの相手にぴったりなんです」

猫という自然の存在が、生活感を失いがちな漫画家の心の平衡を取り戻してくれるということなのだろう。失礼ながら、妻である聡子さんの存在意義も、つまり猫と同じということなのか。

「ああ、だとしたらショック」

妻が笑うと、夫は少し考えてから言った。

「うーん……、それとはちょっと違うんだよなあ」

何が違うのだろう。

「猫とは話ができない」

真面目な顔でそう言うのを聞いて、こういう夫との暮らしは楽しいだろうなと思った。付け加えるなら、仕事漬けの夫の日常生活を支えるのは聡子さんだ。夫がそれを言わないのは、そのために結婚したわけではないからだろう。

ふたりの結婚は2004年。17年の歳月が流れても、ふたりの関係は少しも変わっていない。

いしかわ・じゅん
昭和26年、愛知県生まれ。漫画家、小説家、漫画評論家。デビュー45年目の現在、毎日新聞朝刊に『桜田です!』を連載中。

取材・文/石川拓治 撮影/藤田修平

※この記事は『サライ』本誌2021年12月号より転載しました。

「いい夫婦 パートナー・オブ・ザ・イヤー 2021」決定

今年は芸能部門として 、渡辺徹(俳優)、榊原郁恵(女優・タレント)ご夫婦 、企業部門として 、ケネス・ライリー(AIG 損害保険株式会社 代表取締役社長兼 CEO)、デビー・ライリーご夫婦が決定いたしました。渡辺徹、榊原郁恵ご夫婦は、結婚記念日や誕生日など夫婦の記念日を大切にし 、プレゼントやメッセージで仲を深めるとともに、思ったことは何でも話し合い寄り添いあう気遣いで、芸能界でも評判のおしどり夫婦として選出されました。
ケネス・ライリー、デビー・ライリーご夫婦は、企業経営者と弁護士という重要な立場にある夫婦だからこそ二人の時間を大切にし、全ての責任と役割を共有し、夫婦のコミュニケーションを深くする理解と努力を怠らず、尊敬と愛情に満ちた夫婦として選出されました。

写真提供:「いい夫婦の日」をすすめる会

 

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