父を介護させてしまい、すみません

夫は何をしているのか? 自分の親ではないか。

「主人は鈍感なのか、いろいろ言ってもあまり通じてないのか、冷酷なのかもしれないです。同居してはじめのころ、私が一人で抱え込んでにっちもさっちもいかなくなったときも、愚痴は娘に言っていました。もともと主人は注射が大嫌い。気絶するほどなので、注射もしてくれなかったんですが、最近は月1、2回くらい、言われてしぶしぶやってくれるようになりました」

夫にキレることもあるという。「あなたの親でしょ! 自分で何もかもして」と詰め寄ると、娘のところに逃げては娘にも叱られている。

それでも、自分の親だからできないのかもしれないと思うこともある。

「私は義父が義理の親だから気を遣っていますが、自分の親なら気を遣わないので、ほったらかしになるかもしれません」

夫には腹の立つこともたくさんある。でも男には気がつかないこともあるのだろうと思いやる。

「だから、ここぞというときにしっかり介護にかかわってもらえるように、今はトレーニング中ということで目をつぶっています」

なんとできた嫁なのだろう。迫田さん自身の父親はすでに亡く、母親は近県で一人暮らしをしている。

「病も抱えていて心配はあります。父が亡くなって、これから母とたくさん出かけようと思っていた矢先に義父の介護になってしまいました。母は逆に私のことを気の毒に思っているようです」

今は迫田さんの姉が母親を連れて遊びに来てくれる。義父の介護をはじめたころ、夫が迫田さんの母親に「留美子さんに父を介護させてすみません」と頭を下げたという。

迫田さんは、「私には『ありがとう』も『ごめんなさい』も言えない人なのに」と驚いた。介護者を支えているのは、そんな小さな一言だったりするのかもしれない。

次回に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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