秀吉役の勝新太郎と若手俳優・渡辺謙
A:『独眼竜政宗』で特筆すべきは、豊臣秀吉を勝新太郎さんが演じているところではないでしょうか。
I:徳川家康も津川雅彦さんですからすごいですよね。
A:小田原の陣に遅参した政宗が初めて秀吉と会う場面は、大河史上屈指の名場面だと思いますし、勝さんと渡辺謙さんが撮影当日に本番まで一切会うことなく、リハーサルもなかったというエピソードとともに伝説と化していると思います。死装束で秀吉の面前に臨んだ政宗の首に秀吉が杖でパシーン! とにかくしびれるシーンでした。
I:後半戦も大崎葛西一揆を政宗が扇動していたのでは、と秀吉から疑われ、花押の鶺鴒(せきれい)の目に針穴を入れてあるというエピソードなど緊迫の展開の連続でした。
A:関白豊臣秀次(演・陣内孝則)事件の際にも連座を疑われるなど、政宗は秀吉とは緊張を強いられましたね。秀次事件の際には、秀次の側室として上方に来たばかりの最上義光の息女駒姫(演・坂上香織)の処刑をめぐるやり取りが涙を誘いました。こんな理不尽なことがあっていいのか、と当時も今も思います。
I:政宗の娘五郎八(いろは)姫(演・沢口靖子)が家康六男の忠輝(演・真田広之)に嫁いだため、こちらも政宗の不安の種になりましたね。
A:この夫婦は、4年後の『太平記』で足利尊氏・赤橋登子と、再び夫婦役を演じていますが、本当に政宗の一生は波乱万丈でした。さらに、政宗独自の遣欧使節・支倉常長も登場して、地元仙台出身のさとう宗幸さんが演じていました。
I:『2年B組仙八先生』の人ですね? シブがき隊が生徒役だった(笑)。
A:とにかく『独眼竜政宗』は1年を通じて濃厚濃密なドラマでした。女性俳優陣も竹下景子さんに桜田淳子さん、秋吉久美子さん、政宗の正室愛姫の少女時代は後藤久美子さんが演じるなど改めて振り返ると、すごいですよね。時代は、バブル経済に向かって浮かれていた時代でした(しみじみ)。
I:国鉄からJRに変わった年なんですよね。もうあれから33年かあ……。
A:改めてこの作品を振り返ると、政宗の叔父や大叔父などが登場したり、芦名や最上、大崎、葛西などそこそこ複雑な関係性もわかりやすく描かれています。にもかかわらず、平均視聴率が39.7%。最高視聴率47.8%を獲得できたのは、脚本がよかったからではないかと思います。
I:本作の脚本はジェームス三木さんですよね。さすがですよね。『麒麟がくる』でも名作大河『太平記』(1991)の池端俊策さんを起用して成功しています。やはり脚本とか設定は重要なんですね。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり