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織田信長の登場でがぜん盛り上がる『麒麟がくる』。〈海からやってきた信長〉〈熱田市場の熱気〉〈熱田の海の先にある伊勢湾〉・・・・・。海無し国・美濃の斎藤道三、そして明智光秀が渇望した〈富の源泉〉について考える。

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織田信長を海岸で待つ明智光秀。海からやってくる信長は、後に天下を見据える信長を示唆する演出なのか?

ライターI(以下I):第7話のラストで信長が海からやってきました。第8話でそのベールを徐々にぬいでいく海のシーンです。

編集者A(以下A):そして、熱田の市場ですよね。信長のころはすでに魚を商う問屋などが軒を連ねていたようです。その歴史は長く、なんと戦後になって移転するまで熱田に魚市場があったといいます。

I:えー、そうなんですか。まさに〈大河ストーリー〉ですね。さて、信長の織田弾正忠家は、交通と経済と信仰の要衝である熱田と津島を押さえたことで、富を蓄えるわけですよね。

A:『麒麟がくる』の中でも斎藤道三(演・本木雅弘)が、織田信秀が「内裏の修繕に4000貫」も寄進したことに触れていましたが、そうした富の源泉が熱田と津島。交通と経済と信仰の要衝を押さえるということは、人の往来が盛んになり、全国各地のさまざまな情報が蓄積されるわけです。『信長全史』という本の取材をした際に津島神社の堀田正裕さん(当時)はこんな話をしてくれました。〈室町から戦国にかけて、津島御師と呼ばれた参詣世話役が全国を巡って津島牛頭天王信仰の布教をしていました。この御師らが持ち帰る情報から各地の情勢を掌握していたことが、織田氏の力の源泉だったと思います〉。

I:情報が入るからいち早く鉄砲のことを知る。富が蓄積されているからいち早く鉄砲を揃えることができる、ということですね。

A:第5話で斎藤道三は、光秀から鉄砲の手ほどきを受けていました。おそらくほぼ同じ時期に史実の信長も橋本一巴から鉄砲の手ほどきを受けています。

ほぼ同時期に若き信長も鉄砲の指南を受けていた。

I:『信長公記』に記されているエピソードですよね。スタートはほぼ同時期だったにもかかわらず、やがて道三が仰天する展開になるわけですよね。

A:両者の会見の時の話ですか? それはもう少し先の話になりますけど、道三は、経済力格差を思い知ることになるんだと思います。『麒麟がくる』でどう描かれるのか楽しみな部分です。

熱田の海の先にある伊勢湾と信長

ライターI:さて、熱田の市場と海が舞台になったわけですが、信長の時代と現在の熱田ではずいぶん変化しているようですが。

A:埋め立てなどがあって、信長の時代とはずいぶん違うみたいです。弘前大学の名誉教授・安野眞幸先生の論文によると、〈昔の港町の面影は僅かに石灯籠の常夜灯に残るのみである〉ということらしいです。

I: 「熱田八ヶ村宛て信長制札」の論文ですね。

A:はい。天文18年11月に信長が〈藤原信長〉の名前で出した制札(禁令や法規、布告などを記して寺社の境内などに立てた札)についての論文ですね。この制札は、数ある信長文書の中でもっとも古いものだといわれています。安野先生は、〈尾張守護の意志を信長が熱田八ヶ村に伝達する形式になっている。これは三奉行の一人、織田信秀が、清州にいる守護・守護代を自家薬籠中の物にしていたことを示している〉と指摘しています。

I:織田信秀と信長親子は〈守護→守護代→三奉行〉の三奉行の一家に過ぎないわけですが、経済力を以て、守護代、守護を凌いでいたということですね。

A:そういう状況にあって、美濃の斎藤高政(義龍)や土岐頼芸が考えていたことは、やはり小さいと言わざるを得ないですね。

I:信長がすでに熱田の海の向うにある伊勢湾に目を向けていたのとはあまりに対照的です。光秀が〈経済〉を語っても聞く耳を持ちませんでした。そこに守護の土岐氏が絡んでくる演出は、没落していく旧勢力と瓦解していく中世的価値観を浮き彫りにしているような気がしました。

熱田市場の熱気に触れた明智光秀。

A:そうですね。後年、信長は尾張、美濃、伊勢を制します。三重大学の藤田達生教授はこんなことを言っています。〈尾張、美濃、伊勢を掌握して誕生した信長の政権は、畿内から四国にかけて大領国を形成し京都や堺などを支配した三好一族による政権を「環大坂湾政権」だとすれば、「環伊勢海政権」と呼ぶべき強大な権力を持つに至った〉(『半島をゆく 信長と戦国興亡編』)――。

I:中世的価値観と信長の価値観が大きく異なる点ですね。信長が漁から戻ってきた海、信長が眺めている海のその向こうには、信長が目指した「天下」が秘められていることを示唆する回だったと思います。

A:信長はやがて安土に城を築き、日本海と瀬戸内海の物流も支配します。そう考えると、『麒麟がくる』第7話、第8話の熱田の海のシーンは、なんとも壮大なる演出だったということになるわけですね。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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