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八つ墓村
文・絵/牧野良幸

ドラマ『家政婦は見た!』の家政婦役やアニメ『まんが日本昔ばなし』の語りで親しまれてきた女優の市原悦子さんが1月に亡くなった。そこで今回は追悼の意を込めて、市原悦子さんが出演した映画『八つ墓村』を取り上げてみたい。

『八つ墓村』はご存知、1977年(昭和52年)に公開された横溝正史原作のミステリー映画だ。

といっても市原さんの役どころは連続殺人事件を目撃する家政婦ではない。謎につつまれた八つ墓村の旧家、多治見家を取り仕切る双子の老婆の姉、多治見小竹である。言わば“見られる側”の役どころだ。

双子の老婆という設定がいかにも謎めいていている。登場した瞬間から「絶対このおばあさんには何かある」と、一挙一動が気になる。主人公の辰也(萩原健一)の目の前で、小竹が病にふしている多治見家の当主、久弥(山崎努)に、薬を飲ませたとたんに死んでしまうのだからますます怪しい。医者は「興奮したせいでしょう」と言うけれど毒殺ではないのか?

当時、市原悦子にとって老婆役は老け役もいいところだ。それも怪しげな老婆ということでメイクが濃い。さらに双子だからいつも妹の小梅(山口仁奈子)と並んでいるわけで見分けがつきにくい。こうなると女優市原悦子の個性もキャラに隠れてしまうのではと危惧したけれど、観てみるとやっぱり市原悦子と思うのである。

初めて辰也を見たときの、

「血は争えんもんじゃなあ」

というセリフ。老婆にしてはどこか艶やかな声だ。しかし『まんが日本昔ばなし』でも魅了した語り口は多治見家が背負ってきた怨念を十分に感じさせる。

特徴のある目も健在だ。小竹の意味深な視線だけでも心動かされ、「やっぱり、このおばあさん……」とミステリーにハマっていくのである。

まあ真犯人が誰かということは伏せておくとしても、『八つ墓村』には双子の老婆のほかにキャラクターが立っている登場人物がいる。

それが28年前に村人を32人も殺した多治見要蔵(山崎努の二役)だ。懐中電灯を二本、ツノのように頭にくくりつけて、日本刀や猟銃で次々と村人を殺戮していくシーンは、公開当時に随分話題になったものだ。

ただこの『八つ墓村』が面白いのは、双子の老婆や多治見要蔵ばかりでなく、ほかの人物も個性的というところにある。

渥美清の金田一耕助は言うに及ばず、ショーケンこと萩原健一が演ずる辰也。さらにはその辰也を遺産相続人として八つ墓村に案内する美也子に小川真由美、多治見家の次女である春代に山本陽子とスクリーン映えする俳優が出演している。

とくに萩原健一はカッコいいなあと思う。辰也は事件に巻き込まれるものの、東京の空港で働く平凡な青年だ。それなのに八つ墓村に伝わる忌まわしい話を聞いても取り乱したりしない。ドラマ『太陽にほえろ!』のマカロニ刑事役で見せたワイルドさがある。

このように『八つ墓村』はただ怖いのではなく見ごたえのある映画だ。サスペンスを得意とした野村芳太郎監督の手腕もあるだろうが、やはり横溝正史の世界観が独特なのだろう。なかでも双子の老婆を創り出したことが秀逸だ。その意味で市原悦子の演ずる小竹は壮絶なラストシーンまで観客の眼を離さない。どうぞ観てみてください。

【今日の面白すぎる日本映画】
『八つ墓村』
製作年:1977年
製作・配給:松竹
キャスト/ 萩原健一、小川真由美、山崎努、渥美清、市原悦子、ほか
スタッフ/監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍 原作:横溝正史 音楽:芥川 也寸志

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

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