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市川崑監督『犬神家の一族』|黒々しさが味わい深い傑作ミステリー映画【面白すぎる日本映画 第17回】

文・絵/牧野良幸

『犬神家の一族』は1976年(昭和51年)公開の角川映画である。これが第1回作品。当時大変話題になり、すっかり斜陽産業となっていた日本映画界が久々に沸いたことを今でもよく覚えている。

角川は原作を書いた横溝正史もリバイバルさせた。「犬神家の一族」だけでなく沢山の文庫がベストセラーになったものである。映画と書籍は両方で相乗効果を上げ、まさに角川時代が到来したといってよかった。

ただその頃の僕は、若者特有のへそ曲がりだったからブームに反発して映画は観なかった。 映画を観たのは公開から40年以上も経ってから。つい最近だ。そのかわり極めて冷静な視点で観たつもりだ。そしたらやっぱり『犬神家の一族』も“面白すぎる日本映画”だった。

監督は市川崑である。かつて日本映画の黄金期を支えた巨匠のひとりが、70年代の大資本による娯楽映画の監督をしたということにまずは驚かされる。

しかし小津安二郎や成瀬巳喜男が、たとえ当時生きていたとしても『犬神家の一族』を監督したとは想像しにくい。かといって黒澤明が引き受けるようなタイプの映画でもない(この3人が撮ったらどんな『犬神家の一族』になったか興味深いけれども)。

となれば僕が言うのも偉そうだけど、『犬神家の一族』は市川崑にこそふさわしいと思うわけである。

しかしそれは消去法ではなく、市川崑の持ち味が『犬神家の一族』にピッタリ合うと思ったからだ。何と言っても市川崑がよく使う黒々しい画面が横溝正史の世界にふさわしい。日本の旧家の暗さが伝わる。これは同じ市川崑の作品である『おとうと』のエッセイでも書いたことである。

そしてこれまた『鍵』のところでも書いたことであるが、市川崑独特のどこかマンガ・チックな描写が『犬神家の一族』でも見事に機能している気がする(市川崑監督『鍵』|入り口はエロス、出口はブラック)。次々と起こる殺人事件や犬神家の骨肉の争いが、漫画のコマ割りのようにテンポよく描かれる。回想シーンの特殊な画面効果もどことなく漫画的と僕には思えた。

こういう技巧を駆使してこそ、あの複雑な横溝正史のミステリーを一本の映画にまとめることができたのだと思う。

それから、どこか丸っこい輪郭をたたえたキャラクターも市川崑らしいところだ。石坂浩二が演じる金田一耕助や加藤武が演じる警察署長など、まるで手塚治虫の漫画に出てくるキャラクターのようではないか。

つまるところ新興の角川映画と思っていた『犬神家の一族』は、日本映画の黄金時代から連なる市川崑作品だったということになる。

それは豪華なキャストにも感じる。かつて日本映画を支えてきた俳優が多数出演して映画に風格を与えている。そこに当時人気のあおい輝彦や島田陽子、坂口良子らが色どりを添えているものの、やっぱり圧巻は犬神家の長女を演じる高峰三枝子と、三女を演じる草笛光子だと思う。

二人ともかつて女を描くことに定評のあった成瀬巳喜男監督の作品でも活躍していた女優である。しかし今回は市川崑が成瀬巳喜男のお株を奪ってしまったかのようだ。『犬神家の一族』はミステリー映画であると同時に、女性映画としても味わい深い。

『犬神家の一族』
■製作年:1976年
■製作:角川春樹事務所 配給:東宝
■カラー/146分
■キャスト/石坂浩二、島田陽子、あおい輝彦、高峰三枝子、草笛光子、三条美紀、三國連太郎、坂口良子、加藤武、ほか
■スタッフ/監督: 市川昆、原作:横溝正史、脚本::長田紀生、日高真也、市川崑、音楽:大野雄二

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

『犬神家の一族』は神保町シアター「赤川次郎と現代ミステリーの世界」の3月17日から3月23日のプログラムで上映されます。詳細は神保町シアターのウェブサイトでご確認ください。

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