新着記事

森茉莉が可愛がっていた犬のぬいぐるみ【文士の逸品No.39】

◎No.39:森茉莉のぬいぐるみ(撮影/高橋昌嗣)文/矢島裕紀彦文豪・森鴎外…

カナリア諸島の真っ白な砂浜、真っ青な空……|地球のエネルギーを感じる火山の島ランサローテ

文・写真/バレンタ愛(海外書き人クラブ/元オーストリア在住、現カナダ在住ライター)7つの島か…

人生の楽園探し|地方移住を考えたら、まず最初にすること

主人公は人事異動を機に早期退職・転職しての地方移住を検討し始めた東京の51歳会社員。情報収集…

【まんがでわかる地方移住2】地方移住をするために最初にすること

主人公は人事異動を機に早期退職・転職しての地方移住を検討し始めた東京の51歳会社員。情報収集…

定年世代に注目の新しいキャリア 「顧問」という働き方

文/鈴木拓也企業の「顧問」と聞いて、どんなイメージが思い浮かぶだろうか?多く…

中古品買取で最も人気なのは、やはりあのブランド!?

最近では、整理するための断捨離の一つの手段として、使わないものを単に捨てるのではなく現金化する!…

【学年誌が伝えた子ども文化史】人類、月へ・2|アポロが見せた月生活の夢

学年誌記事で振り返る昭和のニュースと流行!1922年(大正11年)、当時の出版界では初となる…

喜ばれるお持たせは高級デパ地下で!「GINZA SIX」 秋の「手土産スイーツ」10選

実りの秋がやってきた。デパ地下には、旬の食材をふんだんに使ったフードやスイーツが勢ぞろいだ。…

見るものを惹きつけて離さない圧巻の瀧、崖!国際的日本画家・千住博展

取材・文/池田充枝新しい日本画を世界に認知させ、真に国際性をもった芸術にすべく幅広い…

もし「がん」の宣告を受けたら? まず、これだけはしておこう

文/鈴木拓也日本では、2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで死亡する。これは、…

サライ最新号

ピックアップ記事

>>過去の記事へ

サライの通販

>>過去の記事へ

旅行

びろうな旅話(角田光代の旅行コラム 第3回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。木曜日は「旅行」をテーマに、角田光代さんが執筆します。

文・写真/角田光代(作家)

インド・バラナシの渋滞。この地の交通事情はどうなっているのか、車線なんてないに等しく、車と自転車と牛が入り組みながら進んで、そのカオス的な状況に度肝を抜かれました(写真はすべて2017年1月撮影)。

トイレでいちばん驚いたのは、上海を旅したときだ。繁華街の公衆トイレが「こんにちはトイレ」だった。ドアも個室もなく、溝だけが掘ってあり、そこにしゃがんで用を足すトイレだ。

それが1990年代後半。その10年後くらいに旅したときには、「こんにちはトイレ」を見ることはなかった。しかしどういうわけか、トイレに鍵を閉めない人がたいへん多かった。デパートやレストランのトイレに入ってドアを開けると、人が入っている。

こちらとしては、人が入っていれば鍵が閉まっていて開かないと思っているから、つい開けてしまうのである。そうして中で用を足している人たちは、怒るでもあわてるでもなく、「入ってるけど」というようなことを(たぶん)ごくふつうに言う。開けられること、見られることに、強い拒絶反応がないことに驚いた記憶がある。

しかし最近、このトイレをなくすべく、中国のえらい人がトイレ革命を行なうと少し前に新聞で読んだ。観光地を中心に、個室トイレに替えていくのだそうだ。

仏陀が修行し、悟りを開いたブッダガヤ(インド)には感動しました。このとき、ちょうどダライ・ラマがブッダガヤに来ていて、町は全世界から集まったお坊さんでたいへんなにぎわいようでした。

昨年(2017年)、インドを旅するほんの少し前に、たまたま、やっぱりトイレ関係のニュースを読んだ。人口に対してインドのトイレは圧倒的に数が足りないという記事だった。13億人の人口に対し、5億人がトイレのない家に住んでいるらしい。それで政府はトイレ対策に乗り出したというところまでしか、その記事には書かれていなかった。

インドはブッダガヤとバラナシのみ訪れたのだが、どちらの町でも、また移動中のバスの窓から見ていても、道で用を足す人が多いことにびっくりし、そうしてあの記事を思い出して納得した。トイレがないことがふつう(の場合もある)と知らなければ、ただトイレに行くのが面倒くさい人が多いのかと思っただろう。

そのインドの旅のさなか、私はおなかをこわした。私がもっともおそれている事態だ。トイレ事情のよくない場所で、おなかをこわす。考えるだにおそろしいその事態に陥ってしまった。

その日は慎重に観光スケジュールを組んだ。長距離バスには乗らず、おもに繁華街を歩く。おなか痛い、と思ったら、すぐにレストランやカフェに入れるような場所だけを移動する。とはいえ、思うようにいかないのがおなか事情だ。レストランも、カフェも、なんにもないようなところで急激におなかが痛くなった。

まずい、これはまずい、と私は焦って歩きまわった。こういうときは、たぶん動物的本能がトイレまで導くのだろう、今考えても奇跡のように、なんにもない町なかに駐車場があり、その隅に公衆トイレがあるのを見つけた。心の底から安堵し、奇跡に感謝しながら公衆トイレによろよろと走った。

女子トイレの個室のひとつで、女の人が洗濯をしていた。衣類の詰まったバケツを個室に持ちこんで、トイレの水でじゃぶじゃぶ洗っているのである。それどころではないから私は空いている個室に駆けこんでことなきを得た。あまりの安堵に、やっぱり洗濯する女性のことなど気に掛けずにトイレを出て町に戻った。

旅を終えてから、女性がトイレの床にしゃがんで色鮮やかな布地を洗濯していたその光景を、昼間に見た夢みたいに思い出す。

聖なるガンガー(ガンジス川)は、朝日を見なかったせいか、おなかが痛かったせいか、さほど感慨深くもなく……。

文・写真/角田光代(かくた・みつよ)
昭和42年、神奈川県生まれ。作家。平成2年、『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。近著に『私はあなたの記憶の中に』(小学館刊)など。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

関連記事

  1. 日産 スカイライン2000GT-R|そのクルマはいつまでもココロ…
  2. ブリヤート共和国:日本の教科書にも旅行ガイドブックにも載っていな…
  3. トヨタ1600GT|そのミステリアスな存在は、気になって仕方ない…
  4. 地域密着型の企業スポーツで地域経済を活性化したい!(川合俊一の暮…
  5. プロレス体験でストレスを受け流す!「闘う本能」を呼び起こす!!(…
PAGE TOP