取材・文/角山祥道

自然と「いのち」を描き続ける日本画家・堀文子さんは今夏、99歳となった。世間でいう「白寿」である。これを記念し、作品を時代ごとに辿る展覧会『白寿記念 堀文子展』が、神奈川県立近代美術館 葉山で行なわれている(~2018年3月25日まで)。

『群雀(むらすずめ)』1975年 今回、初出品となる大作で、幅約5mの板の上に顔彩(日本画用の固形絵の具)で描かれた。57歳の時に描いたもの。竹林の間を縫うように群れて飛ぶ78羽のスズメと、すくっと伸びた21本の竹──合わせて数えると、図らずも白寿を祝うかのように「99」となっている。本展の見どころのひとつ。(145×516cm)柳生の庄蔵

展示されるのは、初期の作品や絵本の原画をはじめ、メキシコやイタリア、ネパールなど世界各地の旅、そして草花や四季のうつろい──「いのち」の軌跡を描いた代表作の数々だ。展覧会に初出品となる作品を含む、日本画や水彩画など約100点、関連資料約50点が展示される。

『蓮』1980年《都会を離れ森に住み、放浪の旅を続け乍(なが)ら、草木や鳥獣と呼吸を共にし山の掟を学び、命の流転を見詰めて》きたと語る、堀さんを代表する作品のひとつ。62歳の時に描かれた。(紙本彩色、193×129㎝)神奈川県立近代美術館蔵

「私(わたくし)にとって、絵は日記であり、そのときどきの自画像です。こうやって、描いてきた絵を振り返りますと、何十年か忘れていた自分に会ったような、本当に不思議な気持ちになります」(堀さん)

作品の題材はすべて、堀さんを突き動かしてきたものだ。

「マグマが燃え上がるように、カーッとなったものだけを描いてまいりました。他人(ひと)様はミジンコやクラゲを見ても心が動かされないかもしれませんが、私はその美に震えるのです。感動というより、逆上に近い。ですから、自分でも、なぜこんな色を使ったのか、なぜこの線を描いたのか、説明できません。私には一枚とて同じ絵はありませんが、『描かない』のではなく、『描けない』のです。だって昨日と今日の私は違うのですから」(堀さん)

『霧氷』1982年 64歳の時の作品。堀さんは61歳で軽井沢にアトリエをもったが、その時目にし、体験したことを絵に結実させた。《極寒の冬、浅間の裾をとり巻く落葉松(からまつ)林が霧氷の世界に変わるその美しさは、住んでみなければ解わからなかった》。(紙本彩色、135×180cm)神奈川県立近代美術館蔵

そんな堀さんが、これまでにいろいろなところで語り、書いてきた「言葉」をまとめた書籍『ひまわりは枯れてこそ実を結ぶ』(小学館)を上梓する。

「言葉と無縁の世界を歩んできた私ですが、いつも言葉で、自問自答を繰り返してきました。言葉もまた、そこに表れるのは、その時々の“いまの私”なのです」(堀さん)

絵の中にも、言葉の中にも、瞬間瞬間を生きる堀さんの姿がある。

堀 文子(ほり・ふみこ):大正7年(1918)7月2日、東京生まれ。女子美術専門学校(現・女子美術大学)卒業。昭和42年より神奈川県大磯町にアトリエを構える。画文集に『堀文子画文集 命といふもの』など。最新画集に『画文集 堀文子 現在(いま)第三集』(定価1500円/ナカジマアートで販売 電話:03・3574・6008)。撮影/宮地 工

【展覧会情報】
『白寿記念 堀 文子展』
■会場:神奈川県立近代美術館葉山
■所在地:神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
■アクセス:JR逗子駅、京浜急行新逗子駅よりバスで「三ヶ丘・神奈川県立近代美術館前」下車、徒歩すぐ。
■電話:046・875・2800
■会期:11月18日(土)~2018年3月25日(日)(期間中展示替えあり)
■開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)
■休館日:月曜(1月8日、2月12日は開館)、年末年始(12月29日~1月3日)
■入場料:一般1200円、65歳以上600円

※東京・銀座のナカジマアートでも『堀文子展 2017…現在(いま~99歳のアトリエから~』を11月16日~12月6日に開催します。

【新刊情報】
『ひまわりは枯れてこそ実を結ぶ』
(堀 文子著、小学館刊)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388587

堀文子さんがこれまでに考えたこと、感じたこと──100を超える珠玉の言葉を集めた名言集が刊行された。ここには、99歳のいまだからこそ伝えたい思いが込められている。

《この世の不思議を知りたいということが、私に絵を描かせている》

《どこまで行きつくのか。自身の終りの風景に興味しんしんである》

《人の一生は毎日が初体験で、喜びも嘆きも時の流れに消え、同じ日は戻らず、同じ自分も居ない》

本書に記された堀さんの言葉は“いま”を精一杯に生きることの大切さを教えてくれる。

本書『ひまわりは枯れてこそ実を結ぶ』の詳細については以下のページをご覧ください。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388587

※この記事は『サライ』本誌2017年12月号より転載しました(取材・文/角山祥道)

 

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