取材・文/池田充枝
国内外に多くのファンをもつ安野光雅(あんの・みつまさ)の作品展が開かれています。
安野光雅は、大正15年(1926)、島根県津和野町生まれ。幼少から絵が大好きな少年でした。
昭和14年、津和野を離れ山口県の宇部高等学校に転校、同20年4月に召集をうけ、同年8月15日に香川県王越村(現坂出市)で終戦を迎えました。同23年、代用教員として徳山市加見小学校に勤めました。昭和25年3月、美術教員として上京、玉川学園に赴任します。その後、教員の傍ら本の装丁などを手がけるうち、出版社の仕事が増えて教職を辞め、画家として独立しました。
昭和43年、文章のない絵本『ふしぎなえ』で絵本界にデビュー。その後、好奇心と想像力、独創性の豊かな作品を次々と発表します。『ふしぎなえ』『さかさま』『ABCの本』『旅の絵本』など多くが海外からも評価され、さまざまな国で出版されて多くのファンをもっています。
平成24年、文化功労者に選ばれ、現在も92歳の現役画家として活躍しています。
本展は、デビュー作の『ふしぎなえ』をはじめ、文字とことば遊びを描いた『ABCの本』『あいうえおの本』、世界各国を旅する人気シリーズ『旅の絵本』、そして近年の風景画まで約130点を紹介します。
本展の見どころを、水野美術館の学芸員、野口春花さんにうかがいました。
「安野光雅さんといえば、繊細でやさしい水彩画。幼い頃、絵本で親しんだ方も多いでしょう。そんな安野さんの絵本のなかには、一文字も文章がなく、絵をじっくり眺めることで多くの発見が生まれるものがあります。
例えば、本展での私の一押しの作品『もりのえほん』がそのひとつです。森の様子を葉の一枚一枚まで描いた緻密な風景画と思いきや、少し視点を変えて木々の空間などに注目すると、身近な動物の姿や輪郭がいくつも隠れていることに気づきます。ぜひ会場で探してみてください。
そして、安野さんの代表作『旅の絵本』も絵のみで構成され、青い衣服の人物が、馬に乗って海外の美しい街や農村を旅する絵本です。本展で展示するイタリア編のうち、ヴェネツィアの場面では、ゴンドラに乗る人物や広場で憩う人々に紛れ、左上にシェークスピア『ベニスの商人』のナイフと秤を持つ男の姿が描き込まれています。青い衣服の旅人を見つけることはもちろん、こうした、物語や名画を連想させる姿を探すのも、この絵本の楽しいポイントです。
安野さんの作品は、大人も子どもも楽しめる、遊び心に満ち溢れたものばかりです。画業50年を超える安野さんの多彩な世界をお楽しみください」
心癒されるやさしい光景と遊び心溢れる仕掛け、会場で存分にご堪能ください。
【開催要項】
安野光雅のせかい 「ふしぎなえ」から「旅の絵本」
会期:2018年8月4日(土)~9月24日(月・祝)
会場:水野美術館
住所:長野県長野市若里6-2-20
電話番号:026・229・6333
http://www.mizuno-museum.jp
開館時間:9時30分から17時30分(入館は17時まで)
休館日:月曜日(ただし8月13日、9月17日、24日は開館)、8月17日(金)、9月18日(火)
取材・文/池田充枝