取材・文/池田充枝
日本の色絵磁器は、江戸時代(17世紀)初頭、佐賀県有田町一帯で創業され、やがて古伊万里、古九谷、柿右衛門、鍋島など、個性豊かな様式に展開していきました。
なかでも鍋島焼は、佐賀藩が直接管理する「藩窯(はんよう)」が生み出した華麗な高級磁器で、将軍家への献上をはじめ、幕閣・公家・諸大名への贈答品などに用いられました。
名称の由来は藩主・鍋島氏によるもので、生産と流通は厳格な管理下におかれ、藩をあげて色絵磁器の技と美が極致まで追求されました。
将軍家への献上は慶安5年(1652)以降毎年行われ、幕末動乱期の安政3年(1856)まで継続されました。最盛期は色絵の「色鍋島」が盛んに制作された元禄から享保年間(17世紀後期~18世紀前期)頃であり、以降は青磁と染付が中心に作られました。
明治4年(1871)廃藩置県とともに一旦途絶えた鍋島焼ですが、この伝統を復活させ、今日まで一貫して伝えているのが、今泉今右衛門家(いまいずみいまえもんけ)です。同家は御用赤絵師(ごようあかえし)であり、藩庁の管理のもとに11軒(のちに16軒)に限って営業許可を得た、有田の赤絵屋の1軒でした。
今右衛門家の十代、十一代の努力は、昭和46年(1971)十二代の時、「色鍋島」として重要無形文化財に総合指定され、現在まで「色鍋島今右衛門技術保存会」に受け継がれています。
また、十三代と当代(十四代)の今右衛門は伝統的な技術を継承しつつ革新的な試みに挑戦し、現代の造形美を追求する作品を発表しています。
その芸術性は高く評価され、十三代は平成元年 (1989)、当代は平成26年(2014)に「色絵磁器」の重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けました。
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そんな“今右衛門の色鍋島”の歴史を一望できる展覧会が、愛知県陶磁美術館で開かれています。(~2017年8月27日まで)
本展では、第1章「色鍋島-色絵磁器の最高峰」、第2章「人間国宝 今右衛門の現在」、第3章「御用赤絵屋の近代-色鍋島の伝統と創造」、第4章「藩窯鍋島焼」、第5章「わざと美の伝承」の5つの章に分け、約180点にのぼる作品を通して、今右衛門の色鍋島の歴史を辿ります。
本展の見どころを、愛知県陶磁美術館学芸課の神崎かず子さんにうかがいました。
「このたびの展覧会では、当代今右衛門の最新作からはじまり、先代、先々代と伝統を継承した明治までの歴代をとりあげ、江戸時代の鍋島藩窯の精品にたどりつく構成になっています。現代から時間をさかのぼり、鍋島焼370年の歴史をご紹介します。
まず展覧会の冒頭でご覧いただくのは、当代今右衛門の「色絵薄墨墨はじき時計草文鉢」です。こちらは、「吹雪」と「墨はじき」という鍋島焼の伝統的な技法を用いていますが、当代が独自に発展させた技術と独創性あふれるデザインにより、非常に斬新かつ繊細優美な作品となっています。
時計草の花芯と雪の結晶をそれぞれ図案化し、それらを組み合わせて連続的に構成した巧みな意匠にも注目してください。
続いて「色絵蕎麦畑文皿」(写真)は、江戸期の傑作のひとつです。鍋島焼は将軍や幕閣などへの贈答品であり、彼らの食器としても用いられていたので、サイズなどもきちんと決められています。これは「尺皿」といって、大きさはきっちり一尺(約30.3cm)になっています。
文様は郷愁を誘う蕎麦畑ののどかな風景が描かれています。背景のぼかしの入った青い部分は、どのようにその均一な染付を行ったか現代の作家でもわからないそうです。それほど高度な技術が用いられていたことがわかる作品です」
鍋島焼の粋を堪能できる本展は、兵庫陶芸美術館(9月9日~11月26日)、そごう美術館(2018年1月26日~2月18日)に巡回されます。
名称 | 『特別企画展 今右衛門の色鍋島』 |
会期 | 2017年7月1日(土)~8月27日(日) |
会場 | 愛知県陶磁美術館 本館1階(第1・第2・特別展示室) |
住所 | 愛知県瀬戸市南山口町234 |
電話 | 0561・84・7474 |
Web | http://www.pref.aichi.jp/touji |
開館 | 9時30分~17時(入館は16時30分まで) |
休館日 | 月曜(ただし7月17日は開館)、7月18日(火) |
取材・文/池田充枝