『羅生門』(奈良絵本)〔江戸時代前期(17世紀) 静嘉堂文庫蔵〕

私たちは昔からさまざまな方法で、情報の伝達をしてきました。最も有効だった方法は「書物」による伝達ですが、文字を書き記すのみではなく、そこに絵を入れることも、古くから行われてきました。絵を入れることで、より解かりやすくなり、伝達力も強くなります。

例えば、難解な経典の世界を庶民に広く浸透させるための絵解き、辞書・参考書の類に付された図解、時計や機巧(からくり)の仕組みを解説する図、動物・魚類・植物の実物を忠実に描いた図鑑、現在の写真の役割をした時事情報の記録の絵、物語をよりドラマチックに盛り上げるための挿絵などなど、挿絵入りの書物は数多く残されてきました。

また挿絵本は、その時代時代の人々の知識(情報)に対する要望や、関心のあり方を反映していて、挿絵本を紐解くと、その時代の息吹が感じとれます。

そんなバラエティに富む挿絵本の世界を一望できる展覧会「挿絵本の楽しみ ~響き合う文字と絵の世界~ 」が、東京・世田谷の静嘉堂文庫美術館で開かれています(~2017年5月28日まで)

本展は、おもに中国の明・清時代(14世紀半ば~20世紀初め)と、日本の江戸時代(17~19世紀半ば)に作られた本の中から、解説書・記録類・物語など多彩な挿絵本を選び、その時代背景とともに紹介します。

本展の見どころを、静嘉堂文庫主任司書の成澤麻子さんにうかがいました。

「皆さんは挿絵の入った本はお好きですか? 文字を読み、挿絵を見て、また文字を読み……。百聞は一見に如かず、と言われますが、私たちはそのようにして、挿絵本からさまざまな情報を得てきました。

そんな挿絵本は、現代と同じように、その時代時代の人々の、情報に対する多様な要望を反映して作られてきたものとみることができます。

本展では、中国の明・清時代と日本の江戸時代に作られた本の中から多様な挿絵本を選び、「神仏をめぐる挿絵」「辞書・参考書をめぐる挿絵」「解説する挿絵」「記録する挿絵」「物語る挿絵」の5つのカテゴリーに分けてご紹介します。

例えば『環海異聞』は、寛政5年(1793)に石巻から江戸に向かった船が難破し、アリューシャン列島からペテルブルクを経て11年後に帰国した漂流者の聞書きを基に作られた記録です。これらの漂流の記録は、幕末の幕府の対外政策にも大きな影響を与えました。

大槻玄沢編『環海異聞』〔江戸時代後期(19世紀)写 静嘉堂文庫蔵〕

また渡辺崋山の傑作「芸妓図」(重要文化財)もお見逃しなく。愛する芸妓を描く心情を切々と述べた賛に、崋山の新たな一面を見ていただけます

挿絵ということばからはまず“物語”が連想されますが、物語のみならず実に多彩なジャンルの挿絵本があることをお楽しみください」

古来、人々が貪欲に情報を求めていたことがわかる画期的な展覧会です。ぜひ足をお運びください。

【挿絵本の楽しみ ~響き合う文字と絵の世界~】
■会期:2017年4月15日(土)~5月28日(日)
■会場:静嘉堂文庫美術館
■住所:東京都世田谷区岡本2-23-1
■電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
■ウェブサイト:http://www.seikado.or.jp
■開館時間:10時から16時30分まで(入館は16時まで)
■休館日:月曜日
■料金:一般1000円 大高生700円 中学生以下無料、20名以上は団体割引あり
■アクセス:東急大井町線・田園都市線(地下鉄半蔵門線直通)「二子玉川」駅より駅前4番バス乗場で東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車徒歩約5分、小田急線「成城学園前」駅南口バス乗場から二子玉川行きで「吉沢」下車徒歩約10分

取材・文/池田充枝

 

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