「何らかの目的をもって生まれてくる人間などいない」(夏目漱石)【漱石と明治人のことば70】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「人間はある目的を以て、生まれたものではなかった。これと反対に、生まれた人間に、はじめて、ある目的ができてくるのであった」
--夏目漱石

明治42年(1909)に朝日新聞に連載された夏目漱石の小説『それから』の中の一節。このあと漱石は、こうつづける。

「最初から客観的にある目的をこしらえて、それを人間に付着するのは、その人間の自由な活動を、すでに生まれる時に奪ったと同じことになる。だから人間の目的は、生まれた本人が、本人自身に作ったものでなければならない」

確かに、まだ小さい子供に、「おまえは将来はこれをするんだ」と親の側から押しつけても、かえって反発を招いたりして、なかなかうまくいかないものだろう。

とはいえ、自分の進むべき道が、そう簡単に見つかるとも限らない。それでも、悩んだり苦しんだりして、自分自身で見つけていきなさい。漱石はそう語るのである。人生とはそういうものなのだよ、と。

藤子不二雄Aさんに『まんが道』という漫画作品がある。安孫子素雄と藤本弘のコンビ(藤子不二雄)が手塚治虫に憧れ、漫画家になることを夢見て富山から上京し、奮闘し成功していく物語。この作品について、以前、評論家の川本三郎さんにインタビュー取材したとき、こんなふうに語ってくれた。

「彼らはまだ10代半ばくらいの若さで、職業として漫画家になることを決意した。その年齢できちんとした夢を持てるって、凄いことだし幸せですよ。彼らは好きで好きでたまらない漫画家への道を早くに見つけ邁進していった」

確かに、そんな若さで自分自身の進むべき道、明確な目標を持てるというのは例外的なことだろう。しかし、その道も、才能だけでなく、奮闘努力なしには開けなかった。ただ、夢を大切にしつづけたために、苦労も苦労とせず、のびのびと進んでいった。

現代は超高齢化社会で、セカンドライフへ向けての選択を迫られる人も少なくないだろう。ぜひとも、自分らしく、かつ、どこかに夢の感じられる目標を持てたなら…。そんなふうに願う。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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