明治維新から第二次世界大戦まで70年におよぶ日本の陶磁器のデザインを、時代順に紹介する「セラミックス・ジャパン 陶磁器でたどる日本のモダン」が東京・渋谷の松濤美術館で開かれています。日本で作られた陶磁器のデザインを通史的に見せる本邦初の展覧会です。

河井寛次郎や板谷波山などの作家物から、制作者の名前が記されない量産品まで、デザインという言葉でくくることで、美術と工業の分野を横断した、ありのままの陶磁器の歴史を辿ることができます。

《上絵金彩獅子鈕付壺》 新村留蔵 19世紀後期(明治時代前期) 個人蔵

《上絵金彩獅子鈕付壺》 新村留蔵 19世紀後期(明治時代前期) 個人蔵

明治時代のはじめ、政府の殖産興業の方針もあり、多くの陶磁器が欧米に輸出されました。鹿児島で作られていた薩摩焼は、精緻な絵付けのため外国人に好まれ、人気のあまり東京、横浜、神戸、大阪、京都など、各地で作られるようになります。

上に掲載した「上絵金彩獅子鈕付壺」は東京薩摩。瀬戸で作られた素地に、東京で絵付けをして完成させていました。

《新製マジョリカ額皿》 東京高等工業学校窯業科/板谷波山 1905(明治38)年 東京工業大学博物館蔵

《新製マジョリカ額皿》 東京高等工業学校窯業科/板谷波山 1905(明治38)年 東京工業大学博物館蔵

もう一つ、明治時代に入って大きく変化したのが、窯業の技術です。

東京職工学校に赴任した、ドイツ人化学者ゴットフリート・ワグネルは釉薬の下に絵付けを施す、釉下彩などの技法を伝えました。その釉下彩を駆使した作品で名を馳せた板谷波山が、東京高等工業学校の嘱託だった若かりし頃に作ったのが、「新製マジョリカ額皿」です。

素焼きの素地に白い錫釉をかけて絵付けをする、イタリアのマジョリカ焼を研究したもので、つやが特徴です。デザインは、当時流行していたアール・ヌーヴォーを思わせます。

《タイル》 淡陶株式会社、佐治タイル、佐藤化粧煉瓦他 20世紀前期(明治時代末期~昭和時代初期) 個人蔵

《タイル》 淡陶株式会社、佐治タイル、佐藤化粧煉瓦他 20世紀前期(明治時代末期~昭和時代初期) 個人蔵

西洋風の建築の暖炉や水回りの装飾などに用いられるタイルは、最初は輸入に頼っていましたが、明治時代の後半頃から日本で生産されるようになります。なんといっても目に飛び込むのは、ピンク、水色、薄紫の鮮やかな色。

松濤美術館学芸員・増田政史さんは次のように説明します。

「このパステルな色は、もともとの日本の陶磁器にはあまりない色味です。タイルはもともとイギリスから日本に入ってきたものなので、それに近づけるために、発色等の技術改良が図られたのだと思います」

ちなみに、現在でも、京都の銭湯「船岡温泉」や、銭湯を改装したカフェ「さらさ西陣」に行くと、展示されているタイルとほぼ同形のものが使用されている壁面を見ることができます。敷き詰めるとかなりサイケデリックです。

《陶試紅銀彩碗皿》 香蘭社 1941-43年頃(昭和10年代後半) 日本陶業連盟蔵

《陶試紅銀彩碗皿》 香蘭社 1941-43年頃(昭和10年代後半) 日本陶業連盟蔵

1920年代頃からは、国際市場に立ち向かうため、アール・ヌーヴォーなど外国の図案を模倣するだけではなく、日本に独自のデザインを追求するようになります。この頃目立ってくるのが、ノリタケの前身である日本陶器、TOTOの前身である東洋陶器、香蘭社、深川製磁など、現在まで続く陶磁器メーカーの活躍です。東洋陶器はもともと便器などの衛生陶器の製造、販売を志していましたが、当時は需要が少なく、食器も作っていました。

さらに歩みを進めると、普及し始めた電灯事業にかかせない碍子(がいし/電線と電柱を絶縁する器具)や同潤会代官山アパートメントで使用されていた洗面台、陶磁器試験所が作った建築建材など、普通の展覧会ではお目にかかれないような工業製品も登場します。立て続けに器を見た後だと、碍子のフォルムが美しく見えてくるから不思議です。

「これまでの陶磁器の展覧会は、美術としての陶磁器や作家物の陶磁器についてとりあげるものが多く、工業デザインについて注目することはあまりありませんでした。そこで、この展覧会では工業分野にも光を当てようとしました。ただ、それだけをとりあげると、内容がぶつ切りになってしまうので、時代の前後との関係を見せようと、美術、工業、どちらのデザイン活動も取り上げることになりました。

展示は通史的に見ることができますので、陶磁器の初心者のかたはもちろん、玄人のかたも楽しめる内容になっています」(増田さん)

全国を巡回してきたこちらの展覧会は、東京会場が最後の開催になります。ぜひご覧下さい。

【セラミックス・ジャパン 陶磁器でたどる日本のモダン】
■会期/2016年12月13日(火)〜2017年1月29日(日)
〈前期〉12月13日(火)〜1月9日(月・祝)
〈後期〉1月11日(水)〜1月29日(日)
※会期中、一部展示替えがあります。
■会場/渋谷区立松濤美術館
■住所/東京都渋谷区松濤2-14-14
■電話番号/03・3465・9421
■料金/一般500(400)円 大学生400(320)円 高校生・60歳以上250(200)円 小中学生100(80)円
※( )内は団体10名以上及び渋谷区民の入館料です。
※障がい者とその付添の方各1名は無料です。入館の際に障がい者手帳等をご提示ください。
※金曜日に入館される渋谷区民の方は無料です。入館の際に住所のわかるものをご提示ください。
※土・日曜日、祝休日、小中学生は無料です。
■開館時間/10時~18時(金曜のみ20時まで)(入場は閉館30分前まで)
■休館日/26日(月)、29日(木)~2017年1月3日(火)、10日(火)、16日(月)、23日(月)
■アクセス/京王井の頭線神泉駅下車徒歩5分、JR・東京メトロ渋谷駅下車徒歩15分
http://www.shoto-museum.jp/exhibitions/171celamicsjapan/

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

 

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