文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

天気の良い日にロサンゼルス近郊の海岸から太平洋を眺めると、南北に細長い島影を沖合に見ることができる。正式名称はサンタカタリナ島だが、一般には「カタリナ島」と呼ばれることが多い。年間でおよそ100万人もの観光客を迎える、南カリフォルニア有数の離島リゾートである。

島の面積は約194平方キロメートルである。日本で言えば奥尻島(約143平方キロメートル)や宮古島(約204平方キロメートル)と近い規模だ。ただし、人口はわずか約4000人でしかなく、そのほとんどはフェリーが発着するアバロンの町に住む。ホテルやレストランなどの観光施設もアバロンに集中している。

観光客で賑わうアバロンであるが、他のリゾート都市にはない特徴がある。それは車の走行音やクラクションがほとんど聞こえてこないことだ。

アバロン港。

カタリナ島では車両の新規登録が厳しく制限されており、順番待ちには数十年を要すると言われている。実質的に、新たに自家用車を所有することはほぼ不可能である。島内の移動は電動カートや自転車、あるいは徒歩が基本となる。

この仕組みによって、排気ガスや騒音は最小限に抑えられ、道幅も広げる必要がない。結果として、港町アバロンでも人が歩く速度が島全体のリズムを決めているような、穏やかな空気が保たれている。空はあくまでも青く、ロサンゼルス名物のスモッグからも無縁である。

アバロン市内。

カタリナ島は16世紀ごろから海賊の根拠地で名を馳せたが、アメリカが空前の好景気に沸いていた1920年代に大きな変貌を遂げた。その牽引役となったのはチューインガムで財を成したシカゴの実業家、ウィリアム・リグレー・ジュニアである。

リグレーは1919年にカタリナ島の大部分を取得し、島を計画的なリゾートとして整備した。今もアバロン港に残る、巨大な円形建築「カタリナ・カジノ(ダンスホール)」はその象徴である。

リグレーはメジャーリーグ球団シカゴ・カブスのオーナーとしても知られる存在である。カブスは温暖な気候に着目し、カタリナ島をスプリングトレーニング(春季キャンプ)地として使用したこともある(1921年から1951年まで)。カブスの本拠地「リグレー・フィールド」は、彼の名に由来するものだ。メジャーリーグ球場としては2番目に古く、1926年からずっとこの名を使用している。来年はその100周年にあたる。

アバロン港。奥の円形の建物がカタリナ・カジノ。

しかし、リグレーの後継者フィリップは1975年に所有する島の土地の約88%を自然保護団体である「カタリナ・アイランド・コンサーバンシー」(https://catalinaconservancy.org/)に寄付するという大きな決断を下した。これにより、島の大部分は開発から守られ、次世代へと引き継がれることになったのである。観光による収益の一部を自然保護や環境教育に再投資する仕組みが確立され、短期的な開発に歯止めをかけている。

現在も島の面積約9割が自然保護区として管理されている。観光客が自由に立ち入れるのは港町アバロン周囲の限られた範囲で、内陸部には丘陵や原野が広がる。ハイキングやエコツアーは許可制で行われ、人数やルートは厳しく管理されている。

山間部から眺めるアバロン

カタリナ島へはフェリーで渡るのが一般的だ。ロングビーチ、サンペドロ、ニューポートビーチなど、ロサンゼルス周辺の港から定期便が運航されており、所要時間はいずれも約1時間前後である。

代表的な運航会社「カタリナ・エクスプレス」を利用した場合、往復運賃は大人1名あたりおおむね80〜100ドル程度(時期や曜日により変動)となっている。日帰りも可能だが、島の魅力を味わうには1泊以上の滞在が望ましい。

フェリーを降りれば、そこから先は電動カートと徒歩の世界である。巨大都市ロサンゼルスのすぐ沖合で、まったく異なる時間が流れていることを、訪れる者は実感するはずだ。

アバロン港近くの歩道

カタリナ島観光ウェブサイト: https://www.visitcatalinaisland.com/

文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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