主人公秀長を演じる仲野太賀さん(中)。『豊臣兄弟!』第1回より。(C)NHK

ライターI(以下I):12月8日に2026年1月4日スタートのNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』(※初回15分拡大版)の第1回試写会(メディア向け)が開催されました。

編集者A(以下A):例年、第1回の試写会での感想をストレートに記事にすることはないのですが、『豊臣兄弟!』に関しては、いてもたってもいられないので、ネタばれしない範囲で早出しすることにしました。

I:なんだか試写を見終わった直後から興奮気味ですが、よっぽど面白かったんですね。

A:当欄では、「大河ドラマファンにとって、ドラマの出来不出来は1年間の生活スタイルに関わる重要事項」ということを1年に1回アナウンスしているのですが、2026年の『豊臣兄弟!』に関しては、完全に、完全に「推し」です。第1回は、まだお屠蘇気分の抜けない1月4日の放映ですが、お子さんのいるご家庭は、お子さんともどもテレビの前に待機いただきたいです。お孫さんが遠方にお住いの方は、ぜひ視聴を呼び掛けてほしいと思います。本作は大人ももちろん絶賛楽しめますが、ぜひ、子供たちにこそ楽しんでほしいという仕上がりになっていると思います。

I:そこまでいいきって本当にいいんですか? 珍しいというか、初めてのことですよね。その理由を説明してください。

A:2026年の大河ドラマが『豊臣兄弟!』と聞いた時は、「また戦国か」「また秀吉のサクセスストーリーか」という思いがよぎりました。秀吉と秀長についても『おんな太閤記』(1981年)の西田敏行(秀吉)と中村雅俊(秀長)、『秀吉』(1996年)での、竹中直人(秀吉)、高嶋政伸(秀長)という名コンビを超えられるだろうかと、正直思っていました。特に1996年の『秀吉』は平均視聴率が30%台という今では考えられない数字をたたき出した作品です。30年前に小学生だった「オールドファン」の中には、秀吉と秀長といえば「竹中直人×高嶋政伸」という記憶が鮮烈に残っていて、新たなキャスティングに興味が沸かないという人もいますからね。

I:なるほど。

A:私自身「また戦国か」などと思ったりしていましたが、試写をみて、その不明を恥じたいと感じました。なんだかんだいって、豊臣秀吉の出世譚というのは、「農民層から天下人」に昇りつめた「常識破壊」の物語で、日本の歴史上最大級のサクセスストーリーなわけです。『豊臣兄弟!』でその物語を紡ぐのが『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』などのTBS日曜劇場のヒット作を数多く手がけ、2020年後期放送のNHKの朝ドラ『おちょやん』を担当した八津弘幸さんというのですから、面白くならないはずがない、とは思っていましたが、予想のはるか上をいく仕上がりでした。大河ドラマでは、『利家とまつ~加賀百万石物語』(2002年)、『功名が辻』(2006年)で秀吉周辺の武将の妻を主人公にした作品も制作された過去があります。それはそれで面白かったのですが、弟の秀長を主人公に配したことで、これほど『太閤記』に新鮮な風が吹くとは思いもしませんでした。池松壮亮さんと仲野太賀さんのコンビについては次週以降に追々言及していきたいと思いますが、直球勝負の面白さを実感できるはずです。制作統括の松川博敬さんが「令和の太閤記」という表現を使っていましたが、「その看板に偽りはない」と感じています。

I:私自身も試写を見て、『太閤記』という物語は、やっぱり日本人の琴線に触れる物語なんだな、ということを改めて痛感しました。なにより感じたのは、「単純明快におもしろい!」ということです。この2年間、『光る君へ』も『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』も楽しく視聴していたのですが、「予習、復習」が必要だったのは否めません。それはそれで勉強になったし、楽しかったのですが、『豊臣兄弟!』の面白さはフリーハンドで視聴しても大丈夫! ということなのかなと思いました。

A:ああ、なるほど。そうかもしれません。予備知識としては、「農民出身の藤吉郎、小一郎の兄弟が、尾張の武将織田信長の家来になって出世していく物語」だけでいいかと思います。そして、大人になって、いろいろ知識も豊富になった人たちも「初めて大河ドラマを視聴した無垢だった子ども時代に戻って、ただただ単純に楽しんでほしい」と思います。まさに「壮大なるエンターテインメント」ですよね。

I:でも、秀長主人公って「灯台下暗し」でしたね。

A:「灯台下暗し」? 確かに。今までなぜ、そこに思い至らなかったのか不思議といえば不思議です(笑)。

秀吉、秀長と信長のサクセスストーリー

A:さて、さきほど、秀吉の出世譚というのは日本の歴史上で最大級のサクセスストーリーだといいましたが、実は織田信長の「成りあがり」ぶりも当時の常識を大きく逸脱したものでした。秀吉がまだ藤吉郎を名乗り、信長に仕えようとしたときの信長は、尾張一国すら掌握していません。尾張の半分の守護代を務めていた織田大和守家の三奉行のひとつという家柄です。『完本 信長全史』(小学館刊)によれば、「信長の織田弾正忠家は織田家の嫡流ではなく、守護代大和守家の三奉行の一家にすぎなかった。足利将軍家を頂点としてみれば、「家臣(斯波)の家臣(織田)の家臣」。領地でいえば、尾張の四分の一国ほどのものしかなかった。その出自は、あくまで室町幕府の四次団体だ。本来ならとても天下のことを口にできる身分ではなかった」という立場でした。

I:つまり、秀吉と秀長のサクセスストーリーというのは同時に、織田信長のサクセスストーリーでもあるわけですね。『豊臣兄弟!』で織田信長を演じるのは、小栗旬さん。すでにドラマや映画になった『信長協奏曲』で織田信長を演じています。

A:これが衝撃的なのですが、『信長協奏曲』での信長をイメージしていると、『豊臣兄弟!』でのアップグレードぶりは半端ないです。ここ、注目ポイントです。楽しみにしていてほしいと思います。ちなみに、小栗旬さんの大河ドラマデビューは、1995年の『八代将軍吉宗』の第44回。水戸藩藩主の徳川宗翰(むねもと)を演じていました。宗翰は、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に登場した水戸藩主徳川治保(演・奥野瑛太)の実父になります。この回は吉宗(演・西田敏行)が嫡男の家重(演・中村梅雀)を折檻して、家重が鼻血を流すというちょっとしたびっくり回でした。その流れで、御三家の当主が勢揃いして吉宗に謁見する場面で、14歳の水戸藩主宗翰も尾張藩主徳川宗勝(演・新藤栄作)、紀伊藩主徳川宗直(演・柄本明)と並んでの登場となりました。小栗さん単独の台詞は、吉宗への返事で「はい!」というもののみ。他の御三家当主とともに「ははー」と平伏して、さらに、家重の嫡男は、まだ竹千代と名乗っていたのですが、御三家の面前で「家治」という諱(いみな)が与えられたので、「おめでとうございます」と祝意を表する場面でもありました。

I:小栗さんが12歳のときですね。

A:今回、NHKオンデマンドで再視聴してみたのですが、やっぱり所作や佇まい、表情がただものではないですね。おそらくこのときの印象が強かったのでしょう。翌年の1996年の『秀吉』第16回で少年期の石田三成である石田佐吉役で2度目の大河ドラマ登場を果たします。

I:竹中直人さん演じる秀吉に対してお茶をふるまうという有名な場面がとってもとっても印象的な回ですよね。『秀吉』では、おね(演・沢口靖子)も同席していました。「NHKアーカイブス」の小栗さんのインタビューによると、竹中直人さんや蜂須賀小六を演じた大仁田厚さん、蜂須賀軍団のひとり稲田大炊助を演じた梶原善さんなどにかわいがられたそうです。

A:『豊臣兄弟!』には竹中直人さんが松永弾正久秀役で出演することが報じられています。松永久秀ということは当然、秀吉、秀長だけではなく、信長との絡みがあると思われます。オールドファンとしては、もう想像するだけで涙腺が緩む情報です。前述のように『秀吉』は平均視聴率が30%を超えた作品です。石田佐吉がお茶をふるまう場面を記憶している方も多いかと思います。でもその佐吉少年が「名優となった小栗旬さんだった」というのは「あー、そうだったのか」という情報ではないでしょうか。

I:小栗さんが、少年期の石田三成を演じてから30年。2022年には『鎌倉殿の13人』で主役の北条義時を演じています。65作を数える大河ドラマですから、ドラマの背景に「俳優たちの大河ドラマ」ともいうべき「出演者の歴史」も内包されているということですね。

「令和の信長」に期待

A:大河ドラマには、信長が登場する作品が多いのですが、昭和の信長といえば、『太閤記』(1965年)、『黄金の日日』(1978年)の2作で演じた高橋幸治さん。『国盗り物語』(1973年)の高橋英樹さん、『徳川家康』(1983年)の役所広司さんがあげられると思います。

I:平成には初めて織田信長が単独主人公になった『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)の緒方直人さん、『秀吉』(1996年)の渡哲也さんがいます。令和になってからも『麒麟がくる』(2020年)の染谷将太さん、『どうする家康』(2023年)の岡田准一さんがいます。

A:小栗旬さんは、間違いなく「令和の信長」として大河史に刻まれる存在になるでしょうね。そんな予感がします。いまから本能寺の変がどう描かれるのか、楽しみでしょうがないですね。

I:はい。

A:大河ドラマの平均視聴率が30%台を記録した作品は、1996年の『秀吉』が最後になります。同じく最後に平均視聴率が20%台を記録したのは2009年の『天地人』。体感としては『豊臣兄弟!』は、両作に引けを取らないどころか、脚本、演者、演出絡み具合を勘案すると、上をいっていると断言します。これに加えて、広報戦略がうまくはまれば、大化けする可能性を秘めていますから、広報担当者は働いて、働いて……

I:あ、それはいってはダメなフレーズ! それに、広報戦略とか、そこまでいってしまっていいんですか?

A:取材先で観光バスに乗って、旅行を楽しむ団体の方々に遭遇することも珍しくありません。大河ドラマファンの中には、毎年、大河ドラマのゆかりの地に旅行するのを楽しみにしている方たちがいますからね。ドラマ本体の視聴率がよくて、作品が話題になっていたら、旅行者の人たちの楽しさもアップします。『豊臣兄弟!』の作品のポテンシャルは、間違いなく視聴率20%超でもおかしくないレベルだと感じています。だからこそ、敢えて言及しています。日本の歴史上で最大級のサクセスストーリーを、令和の今、どう描いてくるのか。作品は間違いなく面白いです。

I:それでは、「豊臣兄弟! 満喫リポート」も1年間並走するということでいいのですね。

A:2020年の『麒麟がくる』から始まった「満喫リポート」も7作目です。2026年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

藤吉郎(後の秀吉、右/演・池松壮亮さん)、登場。第1回より。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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