正しい意味を理解し、適切に漢字が使えているのか、疑問を感じることが増えていませんか? 適当に漢字を使ってしまい、気付かないところで「恥をかいている」ということがあるかもしれませんね。
Google 先⽣やデジタルデバイスの出現により、便利になった反⾯、情報の中⾝については⼗分な吟味が必要な時代になっております。あなたの“漢字の知識”は確かでしょうか? もう⼀度、確認しておいてもいいかもしれません。
「脳トレ漢字」今回は、「糊口」をご紹介します。読み書きをしながら漢字への造詣を深めてみてください。

「糊口」は何と読む?
「糊口」の読み方をご存じでしょうか?
正解は……
「ここう」です。
『小学館デジタル大辞泉』では「ほそぼそと暮らしを立てること」とあります。「口に糊す」や「糊口を凌ぐ(ここうをしのぐ)」という表現でよく用いられ、これは「なんとか生活を維持する」「辛うじて暮らしていく」という意味になります。現代でいえば、「生活費をなんとかやりくりする」といった状況を表現する際に使われる言葉です。
「糊口」の由来
「糊」は粥を指し「口」は食べることを意味します。転じて粥のようなわずかな食糧で飢えをしのぐ、つまり、やっとのことで生活を成り立たせるという意味になりました。

「糊口」と聞くと、江戸時代や明治初期の貧しい庶民の暮らしをイメージされるかもしれません。しかし、現代でも「糊口を凌ぐ」という状況は決して他人事ではありません。たとえば、コロナ禍や物価高騰、先行きの見えにくい社会情勢の中で、経済的な不安を抱えている方々が「糊口を凌ぐ」努力を続けている現実があります。
また、最近では副業を通じて「糊口を凌ぐ」働き方も浸透してきました。言い換えれば、「糊口」とは時代や社会を超えて、私たちの身近に生き続けている言葉なのです。
「糊口を凌ぐ」と「その日暮らし」の違い
「糊口を凌ぐ」と似たような言葉に「その日暮らし」があります。どちらも経済的に苦しい状況を表しますが、ニュアンスには少し違いがあります。
「その日暮らし」は、その日稼いだお金でその日の生活をする、という文字通りの意味合いが強く、将来への蓄えがない、計画性のない生活といった少しネガティブな響きを持つこともあります。
一方で「糊口を凌ぐ」は、苦しいながらも何とか工夫し、耐え忍んで生活を維持している、というニュアンスが含まれます。そこには、逆境に負けまいとする人間のしたたかさや、必死に生きる姿への敬意のようなものも感じられないでしょうか。
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いかがでしたか? 今回の「糊口」のご紹介は皆様の漢字知識を広げるのに少しはお役に⽴てたでしょうか? 「糊口」という言葉は、苦しい中にも日々を生き抜く人間のたくましさや工夫を、そっと支えてくれているのかもしれません。来週もお楽しみに。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
