正しい意味を理解し、適切に漢字が使えているのか、疑問を感じることが増えていませんか? 適当に漢字を使ってしまい、気付かないところで「恥をかいている」ということがあるかもしれませんね。
Google 先⽣やデジタルデバイスの出現により、便利になった反⾯、情報の中⾝については⼗分な吟味が必要な時代になっております。あなたの“漢字の知識”は確かでしょうか? もう⼀度、確認しておいても良いかもしれません。
「脳トレ漢字」今回は、「終ぞ」をご紹介します。日本語の奥深さを楽しみながら漢字への造詣を深めてみてください。

「終ぞ」は何と読む?
「終ぞ」の読み方をご存じでしょうか?
正解は……
「ついぞ」です。
『小学館デジタル大辞泉』では「あとに打消しの語を伴って、その行為や状態をまだ一度も経験したことがない意を表す。今まで一度も。いまだかつて」と説明されています。
驚かれた方もいるかもしれませんね。「終」を「つい」と読むこと自体、あまり馴染みがないかもしれません。
この「終ぞ」は、(下に打ち消しの語を伴って)「今まで一度も」「いまだかつて」 という意味を表す副詞です。大切なポイントは、必ず後ろに「ない」「ぬ」「ず」「まじ」といった否定の言葉を伴って使われること。「終ぞ~した」という肯定的な使い方はしません。
「終ぞ」の由来
「終」という漢字には「おわる」「しまい」という意味のほかに、「物事のすみずみまで行き渡る」「結局」「とうとう」といった意味合いもあります。ここから派生した副詞に「終(つい)に」がありますね。「遂に」と書くことも多いですが、こちらも「結局」「とうとう」といった意味で使われます。
この「終(つい)」という言葉が、「終わりまで」「結局のところ」という意味合いで使われていました。そして、「ぞ」は、意味を強める働きを持つ終助詞です。この副詞的な用法を持つ「終(つい)」に、強めの終助詞「ぞ」が結びついた形が「終ぞ(ついぞ)」であると考えられています。
もともと「終わりまで」「結局」といった意味合いだったものが、否定形と結びつくことで、「結局~ない」「最後まで~なかった」となり、そこからさらに意味が発展して「今まで一度も~ない」「いまだかつて~ない」という意味で定着していったようです。
「つい」の持つ多様な顔
「終ぞ(ついぞ)」の「つい」について見てきましたが、実はこの「つい」という音を持つ言葉は、他にも私たちの身近に存在します。そして、それぞれが異なるニュアンスを持っているのが面白いところです。
例えば、「つい、うっかり秘密を漏らしてしまった」や「甘いものを見ると、つい手が伸びてしまう」のように使う「つい」。これは「うっかり」「思わず」といった意味合いですね。また、「ついさっきまでここにいたのに」の「つい」は、「時間的にすぐ近く」であることを示します。

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いかがでしたか? 今回の「終ぞ」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 「終ぞ」のような少し古風な言葉も、意味を知ってふれることで、表現の幅が広がるかもしれません。
参考資料/
『デジタル大辞泉』(小学館)
『日本大百科全書』(小学館)
『新漢語林』(大修館書店)
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
