成り上がりご家中の悲哀
I:第6回で、私が切ない思いになったのが、意次が松平武元(演・石坂浩二)に、「馬に乗れる家臣はいるのか」と言い放ったところです。老中に対する言葉としては、これ以上ない屈辱的で失礼極まりないですよね。
A:それを発した「白眉毛」こと松平武元は、この時上野館林藩主。第6代将軍家宣(いえのぶ)の弟清武が創設した越智松平家の当主ですが、血統としては、徳川家康の十一男で御三家水戸藩の初代藩主徳川頼房の玄孫になります。
A:意次のスタートは600石ですから、お家の由緒の比較では、武元にはかなわないわけです。しかし、「600石」から大名になったということは、立身が急だったということです。浪人がちまたにあふれていた時代ならともかく、時代が落ちついてくると、馬乗りに長けた家臣よりも文才に長けた家臣を引き立てがちですからね。
I:現代社会ではここまで露骨な嫌味はなかなかないかと思いますが、強烈ですよね。
A:それだけ、9代将軍家重、10代将軍家治という2代の将軍に重用されて、いまや息子の意知(演・宮沢氷魚)も出世を重ねている立場です。そういう中でさらっと、「佐野家」「系図」の問題も描かれました。
I:江戸城の権力闘争は市井で暮らす蔦重(演・横浜流星)らの「人生」にもかかわってくる重要問題。蔦重パート、江戸城パートいずれも目が離せない展開になってきました。

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