I(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)の第1回では、吉原の女郎の遺体が物議をかもしました。吉原の「影」を表現した場面と受け止めていましたが、SNSなどでけっこう話題になりましたね。時代劇ではよく、筵(むしろ)をかぶせた遺体が登場することがありますが……。
編集者A(以下A):筵から手や足がちらっと見えて、それが遺体であることを表現するという手法ですね。今回は、亡くなった後には「身ぐるみはがされる」ということを表現したかったのかと思っていました。戦国時代の戦場などでも討ち死にした兵は着用していた甲冑や所持品が持去られたと言いますから、同様の感覚かと。あれはあれでリアルな描写だと思いました。
I:そういえば、前年の『光る君へ』でも第1回で藤原道兼(道長の兄/演・玉置玲央)がまひろ(紫式部/藤式部/演・吉高由里子)の母を刺殺するという衝撃の場面が展開されました。
A:まあ、いずれにしても当欄では、都度都度、見どころ、注目点を発信していきたいと思います。
中村隼人さん演じる長谷川平蔵が面白そうだ
I:狂言回し的な役回りを、後に火付盗賊改方を率いる「鬼平」こと長谷川平蔵(演・中村隼人)が担っているところがなんだかわくわくするんですよね。第2回では、前回よりも身なりを整え、吉原の作法に準じて「きれいに遊ぼう」とする様が描かれました。
A:現代でいうチップを弾めば花魁の関心を得ることができるというシーンが描かれました。吉原のしきたりをこうやって紹介してくれるのはありがたいです。昔も今も、決まり事を決まり事と心得て、「ゲーム感覚」で座を楽しむというのは鉄則なのでしょう。
I:そういうしきたりがまどろっこしい、めんどうだという人たちが岡場所(非公認の遊里)などに行くというのもうなずける場面でした。
A:長谷川平蔵が今後どういうキャラに転じていくのか、ここも注目点ですね。個人的には、そのままスピンオフで「鬼平」やってほしいわけですが。
現代と変わらぬ暮らし
I:嗽石香(そうせきこう)という歯磨き粉が登場しました。江戸中期ともなれば、電化製品こそないものの、現代社会とそれほど変わらぬ「暮らし」が垣間見られますね。その歯磨き粉を女郎のうつせみ(演・小野花梨)が使っていました。大河ドラマ前作の『光る君へ』関連で言いますと「うつせみ(空蝉)」は源氏物語第3帖。その題名からとったのが「源氏名」のルーツなんですよね。うつせみさんは正統的な源氏名を名乗っているということですね。
A:前年の大河とつながってくるエピソードですね。
I:ところで嗽石といえば夏目漱石を思い出す人も多いかもしれません。中国の故事に由来する言葉で、本来は隠居して、川の水で口を漱ぎ、石を枕にして寝るような暮らしがしたいという意味の「枕石漱水」を言い間違えて「漱石枕流」と言ってしまった人がいて、これだと「石で口を漱ぎ、川の流れを枕にする」という意味になってしまうとつっこまれた際、間違いを認めず「歯を磨くために石で口を漱ぎ、耳を洗うために川の流れを枕にするんだ」と言い張ったという話があり、転じて、漱石は頑固者という意味として使われるようになったらしいです。
A:夏目漱石は自分は頑固者と思っていたんでしょうかね。平賀源内はこの故事から、石で歯を磨くくらい綺麗になる、という意味で歯磨き粉の名前にしたんでしょうかね。「漱」「嗽」の違いはありますが、どちらも口をすすぐ、うがいをするという意味です。
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