有名な肖像画と同じポーズの平賀源内(演・安田顕)。(C)NHK

ライターI(以下I):大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で、私が大注目の人物が平賀源内です。

編集者A(以下A):ほう、そうなんですか。

I:演じているのが、安田顕さんですからね! 期待せずにはいられません!

A:平賀源内というとエレキテルであまりに有名ですが、他にも実にいろんなことをしている人物です。もともと本草学を学んでいたこともあり、日本最初といわれる博覧会のようなものを催したり、田沼意次(演・渡辺謙)の命を受けて鉱山開発に関わったり、そうかと思えば歯磨き粉のキャッチコピーを書いたり、今でいうBL小説を書いたりと、とにかく多才な人物、という印象ですね。

I:『べらぼう』では、主人公の蔦重(演・横浜流星)と老中田沼意次とともに時代を牽引していく重要な役どころです。史実としてはこの設定がどうなのかはわかりませんが、こういうフィクサーみたいな人って、実際、今の世にもいますよね。

A:今回は、平賀源内役の安田顕さんにお話を伺うことができました。まずは、安田さんに平賀源内の印象を語っていただきましょう。

平賀源内という人は、鉱山開発をしたり、キャッチコピーを考えたり、絵を描いたりなんかもしているマルチな人物なんですが、子供の頃に『御神酒天神(おみきてんじん)』というからくり仕掛けのある絵を描いているんですよね。あの絵はすごいなぁと思ってます。源内のふるさとである香川県さぬき市にある「平賀源内記念館」にも行きましたが、エレキテルとかいろいろな展示物がある中に『御神酒天神』もあったんです。絵の前にお神酒を置くと、糸が引っ張られて絵の中の天神様の顔が酔ったみたいに赤くなる。つくった本人も楽しかっただろうし、このからくりを見て大人たちが喜んでいることが、平賀少年には快感だったんじゃないかなと思います。好奇心旺盛で志があって、いろいろなことを発見する少年だったはず。この『御神酒天神』を見て、これが平賀源内の出発点だったんじゃないかなって思いました。

I:子供の工作といえばそれまでですが、そういうものをつくろう、と思うその発想力がおもしろいですよね。

A:今回、安田さんは平賀源内役ですが、民放のドラマでは田沼意次を演じたこともあります。両サイドからひとつの時代を見るようで、おもしろい配役だなと思いましたが、考えてみたら平賀源内ももとは武士。所作などは既に田沼役の時に身についたようです。その辺りについても話してくれています。

平賀源内は吉原にも行くし、山にも行くし、お城にも行きますからね。もともと武士だけど、町人に混じって暮らしているし。行く場所によって所作もちょっとずつ変えたりはしています。これまでにも時代劇には出たことがあるので、所作も少しは経験があるのですが、町人に混じっている平賀源内として演じる時はちょっと崩した感じにしています。そうそう、こんなことがありました。おにぎりを食べている農民の人たちと雑談している源内が振り向くシーンがあるんですが、声のする方向にぎろっとした目をして振り向いたら、監督に、普通にやってください! っていわれて。外連味(けれんみ)の出し方をちょっと間違えました(笑)。平賀源内はいろいろなところに登場するので、演じていて楽しいです。

I:平賀源内も田沼意次同様、生まれたのが早すぎた人物、という印象がありますが、安田さんは平賀源内が生きた時代をどのように思っているのでしょうか。

町人文化が花開いた頃ですよね。田沼意次の改革で、町人がどんどん勢いづいてくる時代で、吉原で町人と武家が交流している。いわゆる当時のサブカルみたいなものが今日まで受け継がれて、今やカルチャーになっている。町人文化がサブカルとして勢いよく広まっていった。エネルギーがあふれていた時代。日本にそういう時代があったんだってことが伝わればいいなと思います。エネルギーが輝いている。人ってみんな組織の中で生きているじゃないですか。その中で、嫌なことやつらいことがあっても、立ち向かっていた時代だと思います。そういうエネルギーが根底に流れている。そういうものがすべて融合して豊かな文化が生まれたんだと思います。見事なものです。

A:サブカル、といわれると、すっと胸に落ちますね。わかるわかる、というか。今は立派な文化として、伝統として語られるものも、当時はサブカルだったわけですね。新しいものが生まれる時のエネルギーは、まさに新星が生まれる時のような輝きだった、ということですね。その土台を作ったのが田沼意次であり、その土台の上で自由に駆け回ったのが蔦重であり、平賀源内であった、と。

I:私の中で安田さんは、飄々としていて、かっこいいのにおもしろい、というイメージなのですが、演じておられる安田さんご自身が感じている平賀源内の魅力についても話してくれました。

一番の魅力は、悲劇を悲劇としてとらえないところ、悲劇を喜劇としてとらえるところだと思います。日本中を渡り歩いて、老若男女問わず、いろんな職業の人たちを見てきた。野心もあるけれど、いろんな人がいて、みんないろいろと大変なことがあるよね、だから何? みたいなところがある。いろいろあって当たり前だよねっていう。適当な感覚、適当さ。つらいことも笑い飛ばして生きる。そこが源内さんの力なんじゃないかな。俺はどこの藩も抱えちゃいけない、自由に生きる、なんていったりして。自由という言葉は、自らの思いによってのみ、我が心のままによって生きる、っていってるんですよね。我がままを通しているんだから、きついのは当たり前というか。組織にいる人たちにはできないことをする。平賀源内は何歩も何歩も先を行っていた人だと思います。もしかしたら、半歩くらい先だったら、生き残ったかもしれない。我が心のままに生きるというのはどういうことなのか考えさせられますね。悲しさを通り越して笑う人っていますよね。いろんな経験をしていると、そうなるのかもしれません。

A:お話を伺うだけで、これはもうハマり役で間違いないですね。史実としては平賀源内がどうなったのか我々は知りうることができますが、『べらぼう』の中で今後、平賀源内がどのような活躍をするのか楽しみです。

I:悲しさを通り越して笑うんでしょうか、源内さん。早くも何やらハンカチ必須な予感がして参りました!

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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