田沼意次のなにが凄いのか?

I:さらっと、南鐐二朱銀が登場しました。

A:これは田沼時代を象徴する通貨になります。『初めての大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」歴史おもしろBOOK』(小学館)には〈大坂は銀、江戸は金。まるで「一国二通貨」の様相を呈していた日本。商いには両替が必要で、両替商が幅を利かせる中で、意次は通貨を統一するために南鐐二朱銀を鋳造します。経済システムの大変換を試みたのです〉と説明されています。

I:田沼意次(演・渡辺謙)による画期的な政策の象徴が「南鐐二朱銀」だということですね。

A:商業を重視する田沼意次の政策には、反対する守旧派がいましたが、彼らが根拠にしたのが、徳川家康が政権運営の根本原理として導入した朱子学。 戦国時代の秩序なき世に秩序をもたらすために導入された考えですが、100年以上経過すると弊害も出てきたというわけです。

I:2年前の大河ドラマ『どうする家康』第44回では、徳川家康(演・松本潤)と本多正純(演・井上祐貴)とのやり取りで〈新しき朱子学をもって正しき人の道を広く説かねばなりませぬ。乱れた世は乱れた心から〉と朱子学導入の場面が描かれました。それを受けて当欄でも次のようなやり取りが交わされています(2023年11月19日 https://serai.jp/hobby/1163339)。

A:家康が民心を統一するために導入した朱子学は、徳川幕府の基礎を固めることに役立ちました。しかし、長い年月を経ると、商業化、近代化への対応で弊害が顕著になっていきます。江戸中期には、商業化の進展で、武士よりも商人の方が裕福となりますが、その地位は従前通り、圧倒的上位に武士がいたわけです。それがより顕著になったのが田沼意次の時代になります。2年後の大河ドラマ『べらぼう』の時代ですね。

I:『べらぼう』では、渡辺謙さんが田沼意次を演じます。

A:田沼意次は、商業化を推進し、封建体制を近代化に舵を切ろうと試みます。ところが、家康の時代に導入された朱子学が弊害になる。ざっくりいうと、封建体制化で、身分による秩序で固められた世の中で、商業化を推進すると、秩序が混乱するというのが守旧派の考えです。その筆頭が、松平定信。教科書では「寛政の改革」を主導した人物として知られていますが、田沼意次の政を批判し、失脚させた人物になります。この「権力闘争」や歴史の機微がどう描かれるのか。大河ファンにとっては楽しみなところですね。

A:今後詳述したいと思いますが、蔦屋重三郎(演・横浜流星)、平賀源内(演・安田顕)、田沼意次は「江戸文化三英傑」ではないのかと感じています。

I:信長、秀吉、家康の三英傑と同様にということですか?

A:信長、秀吉、家康の出会いが奇跡だったのと同様に、田沼、源内、蔦重の三者が同時代に生きたこともまた奇跡ではないでしょうか。それが、今後どう描かれていくのか、注視していきたいと思います。

接待をねだる平賀源内

I:炭売りに扮した平賀源内のくだりは面白かったですね。素性を隠したまま蔦重に吉原での接待をおねだりするっていうのは、源内らしくって。

A:吉原での接待というのは特別なものだったんでしょうね。こういうの、昭和の時代も平成の時代もあったような気がしますが、令和の今はどういう状況なのでしょうか。

I:高級花魁というのは、雲の上のアイドルのような存在。一般の民には高嶺の花。その内部に精通した蔦重というのは人脈を作るということではアドバンテージがあったんでしょうね。ところで、平賀源内が、自分は男色であると宣言しました。これは有名な話で。劇中でも触れられましたが、源内が執着していたのが二代目瀬川菊之丞。この人も当時のインフルエンサーだったと言われます。

A:回想だけの登場はもったいないですよね。演じているのは日本舞踊の三代目花柳寿楽さんです。

田沼意次と御三卿

I:第2回の終盤では、田沼意次が一橋家の能舞台に登場しました。

A:やはり様になりますね。ほんとうにかっこいいです。この場に集う人たちは要注目ですね。やがては蔦重もこの人たちに翻弄されることになる。

I:ああ……。

A:江戸中期の三英傑は、それぞれ活躍の舞台が重なるところもあれば全く違うところもありますが、それが今後、どんな風にまじりあっていくのか楽しみです。一橋家に集った面々がそこにどう絡んでくるのかも含め、要注目です。

I:政治と庶民の暮らしが共鳴しあっている様子を描いているという点でも、『べらぼう』はこれまでにない大河だなと改めて思います。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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