第1回で田沼意次(演・渡辺謙)に「警動」をお願いに行った蔦重(演・横浜流星)。(C)NHK

ライターI(以下I):さて、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で興味深かったのは、蔦屋重三郎(演・横浜流星)が田沼意次(演・渡辺謙)の屋敷を訪ね、四宿(品川、新宿、千住、板橋)や深川などにある岡場所(非公認の遊里)を取り締まってくれるように要請した場面です。それを警動(けいどう)というらしいのですが、初めて聞く用語でした。

編集者A(以下A):岡場所だけではなく賭博場などにも入ったようですね。『べらぼう』の時代には、岡場所などの私娼街が幕府公認の吉原より流行っていたという状況だったようです。

I:七面倒臭いしきたりのある吉原よりも、もっとカジュアルに遊べる岡場所のほうがいいという人が多かったということですね。吉原の立場では私娼街を取り締まってほしいと請願するのは決しておかしくはないですね。

A:私は、蔦重と意次のやり取りを見ながら、そういえば20年ほど前に「警動」があったよな、と思い出していたのですよ。

I:現代に風俗の「取り締まり」があったのですか?

A:はい。最近の大がかりなものは、2003年(平成15)から2005年(平成17)にかけて発動された石原慎太郎東京都知事による「浄化作戦」ではないでしょうか。当時の歌舞伎町や池袋などの繫華街では、一棟まるまる風俗店というビルが軒を連ねるという状態でした。いま振り返るとちょっと常軌を逸していましたね。その多くが公安委員会に届けを出していない「岡場所」的な店舗が多かった。しかもそうした過当競争の中、サービスも過激になる一方でした。

I:なるほど。そういう状況を打開するために石原都知事が「警動」を発したということですね。

A:当時、歌舞伎町のど真ん中の喫茶店で発砲事件が起きるなど、治安の雲行きも怪しいタイミングでした。歌舞伎町や池袋など繁華街の風俗店などが数百店単位で摘発されたのです。

I:なるほど。そこで働いていた人たちはどうなったのでしょうか。

A:実は、それをまとめた史料というか記録があまりないのです。もちろん「浄化作戦が行なわれた」というざっくりした記録はあるのですが、当時の状況を詳細に記したものはほとんどないようです。

I:なるほど。

A:『べらぼう』で描かれている吉原のしきたりや遊び方などの記録は、これから劇中で登場してくるような人々、それは版元だったり書き手だったりするわけですが、いわゆる出版人が遺したものが現在、史料として使われているわけです。そういうことを考えると石原都知事のもとで行なわれた「浄化作戦」を摘発された側からみた記録というのはほとんどないかもしれません。

I:『べらぼう』の時代の人たちはすごかったんですね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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