編集者A(以下A):今から1000年以上前の平安時代に女真族に攻められた「刀伊の入寇」。この合戦で大宰権帥として対峙したのが藤原隆家(演・竜星涼)です。関白藤原道隆(演・井浦新)の四男(劇中では次男)として生を受け、道隆がもう少し長生きしたら、順風満帆な貴族生活をおくったと思われる貴種です。ところが、父道隆が亡くなったのちは、道長(演・柄本佑)と兄伊周(演・三浦翔平)との権力闘争に巻き込まれ、不遇な日々を過ごしました。
ライターI(以下I):その隆家が刀伊の入寇に際して、大宰府で活躍するわけですから、世の中ほんとうにわかりません。
A:歴史が面白いと思うのは、隆家の子孫のことですね。平治の乱の首謀者となった藤原信頼、その兄弟で奥州藤原氏のもとで藤原秀衡に娘を嫁がせ最後の当主泰衡の外祖父となった藤原基成などは隆家の子孫なのですよね。藤原基成は1993年の大河ドラマ『炎立つ』では、林隆三さんが演じていました。さらに平忠盛の後妻となり頼盛を生んだ池禅尼(いけのぜんに)も隆家の子孫になります。
I:平治の乱で敗れて捕らえられた源頼朝の助命を清盛に懇請した女性ですよね。彼女も隆家の子孫なんですね。
A:源実朝の正室となった坊門信子もそうですし、後鳥羽天皇の母藤原殖子も隆家の子孫なのです。つまり後鳥羽天皇にも隆家の血が流れているということになります。
I:平治の乱の首謀者である藤原信頼、承久の乱をおこして鎌倉幕府に対抗した後鳥羽天皇までもが隆家の流れとは、奇縁を感じます。歴史って本当に面白いですね。
【平和が続いて体制にほころびが生じていた? 隆家の活躍で窮地を脱した「刀伊の入寇」であらわになった日本の危機【『光る君へ』満喫リポート】47に続きます
A:頼朝にも奥州藤原氏にも実朝にも後鳥羽天皇にもつながる隆家のことをもっと知りたくなってきましたね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり