陽気なキャラ藤原惟規の死

I:そして、『今昔物語集』にも描かれた涙涙の最期の場面です。為時がものすごく悲しんで、惟規の辞世の句を見るたびに泣いたという逸話があります。

A:惟規はドラマではおとぼけキャラというか、姉のまひろが陰キャラなのに対し、陽キャラでした。でも、割といろいろな状況を理解していて、世渡り上手なところもある。ドラマの中からはピンとこないけど、「後拾遺和歌集」にはけっこう採歌されている優秀な人物でもありました。

都にも恋しき事の多かれば 猶このたびはいかむとぞ思ふ
(大意:都には恋しい人がたくさん待っていてくれるのだから、なんとしてでも今回のこの旅では生き抜いて都に帰りたいと思う)

これは劇中でも紹介された惟規の辞世の句といわれていますが、胸に響いてきて、涙が止まりません。もう惟規に会えないなんて寂しくなりますね。もう明日から惟規ロスです。

I:優しい惟規は、死の間際まできっと自分のことよりも家族や愛する人を思っていたのかなと思わせる高杉さんの演技でしたが、やはり高杉さん自身、岸谷五朗さん演じる父上の為時のことを思って演じたようですね。

一番思ったのは、父上(為時)に対してかなとは思いますね。最期、子供を看取らなきゃいけないっていうのは、切ないし、つらい思いがあるだろうなと思いましたし、監督ともお話して、最期まで人に対して気を遣ったりする部分が見えて、笑顔で亡くなってほしいという話は言われていたので、惟規の良さというのが最後まで出たらいいなと思っていましたね。心残りというのはたぶんたくさんあるので……家族事で特に。だから、惟規が最後まで言っていた通り、「うまくいくといいな」と思っていますね。それは、いとも乙丸もそうですけれど、道長さんとかもね、全部うまく丸く幸せに生きてほしいと思っていますね。

A:惟規を語るうえで、感慨深いのは、惟規の子孫の運命です。劇中では、あたかも独身かのような登場の仕方でしたが、妻がいて、子孫ももうけています。これまで当欄では2回言及していますが、惟規子孫は、貴族社会の荒波を生き抜いて、玄孫(孫の孫)の藤原邦綱は平清盛の知己を得て、中納言に任ぜられる出世を遂げます(https://serai.jp/hobby/1178005)。

I:この話、何度聞いても「聞くも涙、語るも涙」の話ですよね。邦綱の娘藤原輔子は、清盛五男の重衡の妻となり、平家とともに西海にわたり、壇ノ浦に身を投じるという運命をたどります。源氏軍に引き上げられ一命はとりとめましたが。

A:紫式部の兄弟の子孫が壇ノ浦に身を投じるという歴史の流れが、なんとも胸に迫りくるわけです。そして、大河ドラマファンにとって感慨深いのは、高杉真宙さん演じる藤原惟規の玄孫を2012年の『平清盛』で岡本信人さんが演じていることです。

I:きっとまた、NHKオンデマンドで平邦綱登場シーンを確認するんですね。

A:(笑)。

最後の1字を書けず亡くなったといわれる惟規の辞世の句。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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