王族や貴族が私有地を広げていくジレンマ
A:当欄でも以前紹介しましたが(https://serai.jp/hobby/1188471)、1976年の大河ドラマ『風と雲と虹と』でも同様のジレンマが台詞で説明されています。この時は、律令の規定である「公地公民制」が上級貴族らが私有地である荘園を競って拡大している状況へ藤原純友が怒っていた場面の台詞です。
公地公民の制。これが国家の政(まつりごと)の根幹だったはずでしょう。すべての土地は公(おおやけ)の地。民人は公の民。その貢(みつぎ)によって国家が成りたち、そして都があり、政府がある。しかし実際はどうです。王族や貴族、官位の高い人々が競って諸国に荘を持っている。公の土地を片っ端から自分の私有地にしている。大きな寺も神社も地方の豪族もまたしかり。公の土地は減るばかりだ。
政府の中では、北家藤原忠平を中心とする公卿どもや、やつらは自分たちのよって立つ基盤が崩壊しつつあることを知らぬわけではない。知ってはいるが何もしない。いや、しないどころか、彼らこそが真っ先かけて自分の荘を増やすことに懸命で、つまり自分で自分の基盤を掘り崩すことに夢中だ。とんだ白蟻どもさ。
A:問題点はわかっていても、どうしようもできない。武力を持つ勢力が徐々に力を持って来ていることに対する問題意識はあっても、実際には道長自身も私兵として利用すべき時は利用していたわけですから。ここで、道長らが踏ん張って武士の勃興を抑えることができなかったのかと思ったりするのですよね。
I:道長の時代からおよそ150年で保元の乱が発生して「武士の世」が幕開けたともいわれます。150年後のことなどまったく想像もできませんが、私たちの子孫が「あの時踏ん張ってくれたら」という種があるのであれば、育てていきたいですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり