為時役の岸谷五朗さんのインタビュー

I:NHK『光る君へ』SNS公式アカウントやホームページでは毎週「君かたり」と題して、演者の短いインタビュー音声を公開していますが、第30回では、為時役の岸谷五朗さんがインタビューに応じています。岸谷さんのお話がまた沁みるわけです。まひろが強い口調でときっぱりと為時に対峙した場面を受けて、岸谷さんのお話を聞くと、なんだかこの場面がより深く胸にしみ込んできて、もう一度見返してしまいたくなってくるんですよね。岸谷さんのお話をどうぞ。

今まで演じてきた役の中で、おじいちゃん、じいじの役って実は初めてで、俺自身、どういう思いになるんだろうって実はすごく興味があって。小さい賢子ちゃんが現れたりするときには、とにかくとっても優しくなれるんですよね、おじいちゃんって。
まひろに言ってきた厳しいことや、惟規に言ってきた厳しいことを全部排除して、別人のようにただひたすらかわいがるという。これがやっぱりおじいちゃんなんだなっていう。
それで、特別まひろが賢子に厳しくしている部分のその大きなバックボーンには学問というものの素晴らしさを知ってしまっているということがある。その学問の素晴らしさを知っているから、それは絶対に子供には伝授しなきゃいけない、イコール厳しくなっていく。自分が勉強してこなかったから、「しまった……」みたいな、そういう思いをさせたくないから勉強をさせるっていうパターンももちろんあると思うんですけど、それは共通して両者に言えることは、子供を愛しているということ。
まひろの場合は、文学の素晴らしさを知っているがためにイライラしながら教えていくというタイプでしょうかね。その気持ちもとってもよくわかります。
「学問が私を不幸にしたことはない」というのは、いうなれば為時にとってはものすごい誉め言葉なんですよね。自分が学問の世界にいて、それをいつの間にか伝授してしまっていて、そこにのめり込むまひろがいて、それでも不幸だと思ったことはない、それはイコール為時にとっては本当に親孝行な言葉であって、嬉しい言葉であって、でも家族を築くとかいうことに関して、まだまひろにやらせてあげられていないことはたぶんいっぱいあって、そこに関しては、為時自身は学問に集中させたこと、文学の世界に集中させたことを、おそらく後悔していると思うんですね。
でも、まひろはこれからこの作品……紫式部へとなっていく、グーッと坂道を上がっていくまひろの物語としてはそんなことに目もくれず、「学問が私を不幸にしたことはない」と言い切れる、ますますのめり込んでいく紫式部になっていく。だから、お父さんはもうちょっとついていけないです(笑)。「ごめんね」っていう気持ちだけですね。

I: 岸谷さんの肉声は、『光る君へ』公式ホームページで聞けますのでご興味のある方ははどうぞ。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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