一条天皇と中宮定子
I:一条天皇(演・塩野瑛久)と中宮定子(演・高畑充希)の仲睦まじい様子が描かれました。ほんとうにふたりの様子が儚げで見る者の心を揺さぶります。塩野さんと高畑さんの醸し出す佇まいは、多くの大河ドラマファンの心に確実に爪痕を残したと思います。
A:中宮定子派の方はそうかもしれないですね。一方で政局をまったく無視してふたりの世界を謳歌する姿にもやっとする人もいるかもしれません。一条天皇は、長徳の変で左遷されていた伊周(演:三浦翔平)を側近として戻そうと提案しますが、それが「政変」につながると察した定子が躊躇します。その定子の言葉を「口吸い」(現代ではキスと称する)で封じました。
I:私は、この場面を見て「傾城(けいせい)」という言葉が浮かびました。まさに国を傾ける所業であると。そして、美女の楊貴妃に溺れた唐の皇帝玄宗のことを詩にした白居易『長恨歌』が頭に浮かびました。
A:なるほど。それは深いですね。「後宮の佳麗三千人 三千の寵愛一身に在り」=後宮には美しい3000人の女性がいるが、ただひとりの女性が皇帝の寵愛を独占しているってやつですね。皇帝は早朝に政務をとるのをやめてしまったという……。
I:『長恨歌』は『源氏物語』、特に「桐壷」に大きな影響を与えたともいわれています。すでにSNSなどで多くの人が指摘していますが、一条天皇と中宮定子が『源氏物語』の桐壺帝と桐壺更衣のモデルなのではないかとも……。
A:このあたり、『光る君へ』の脚本が絶妙なのは、一条天皇と中宮定子に光をあてることで、『長恨歌』の存在を想起させて、『源氏物語』冒頭の「桐壺」帖に誘導する。すごくないですか? 知らず知らずのうちに「桐壺」に魅せられてしまうという……。
【辞意を表明する道長の思惑。次ページに続きます】