為時はやっぱり世渡り下手?
I:国府では源光雅が新任国司の為時に対して砂金を進上しようとします。それを為時は毅然として拒否します。為時の清廉さを強調する場面のようなのですが……。
A:現代的な感覚では、賄賂のようなものを受け取らない為時は偉い! ということになるのでしょうが、当時は成功(じょうごう)という金銭を納めたり自己負担で事業をさせることで官職が与えられる制度がありましたから、日常的な作法だったと思われます。ですから、この場面は「清廉な為時」というよりも「変わり者の為時」あるいは「偏屈な為時」を表現しているのかなと思ったりしました。
I:父親の官職が娘の縁談を左右する時代ですから、まひろの結婚適齢期に為時が散位(無職)だったのはまひろの人生にとって痛手でしたね。為時を見てそう思いました。さて、中央から派遣されるトップと地元に根差した官吏の付き合いは昔も今も大変そうですね。
A:現代でも例えば、各道府県警のトップである本部長は警察庁のキャリア官僚の指定席ですから、似たような感じだったのかなと思ったりしました。もちろん現代では、砂金のようなものを贈るなんてありえないですが……。
まひろの不安
I:さて、国守の娘ということで、まひろ(演・吉高由里子)に部屋と硯、筆に紙まで用意されていました。ここで綴ったのが 「かき曇り 夕だつ波の荒ければ うきたる舟ぞ しづ心なき」の歌。京から越前までの道中に詠んだ歌として知られています。
A:「空一面が暗くなり、夕立が呼ぶ波が荒いので、その波に浮いている船は不安なことだ」という意味ですが、越前での暮らしに不安を覚えたということでしょうか。
I:主人公であるまひろが父の越前赴任に同行して、京に不在なわけですが、この間の都の動向にも目が離せないですね。
A:長徳の変で、藤原伊周(演・三浦翔平)、藤原隆家(演・竜星涼)兄弟が失脚して、中宮定子が落飾しました。この落飾が新たな「悲劇」というか「悲恋」を生んでしまうわけです。
I:それにしても、往生際が悪いといいますが、藤原伊周の行動は解せません。いかに母が大事といっても、自分の立場を考えない行動でした。
A:父である道隆(演・井浦新)の引きで、10代のうちに公卿に列して、皆にちやほやされる生活が身についてしまってからの転落が急激過ぎました。どう身を処したらいいのかわからないというのが実情だったのではないでしょうか。
I:私は、中宮定子がどう描かれるのかに強い関心を抱いています。彼女と清少納言のことももっともっと知りたいという思いに駆られています。
A:そうした中で、越前でも事件が起こります。また待ちきれない1週間が始まります。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり