ライターI(以下I):『光る君へ』第13回では、摂政藤原兼家(演・段田安則)以下公卿らが集まる中で、地方の国司の横暴を訴える上訴が頻発していることが議題になりました。
編集者A(以下A):劇中で触れられていたのは、教科書でも有名な「尾張国郡司百姓解文」のことだと思われます。藤原北家魚名流の尾張守藤原元命(もとなが)の苛政を地元の郡司、有力農民が朝廷に上訴したというものです。この尾張守の案件が歴史上クローズアップされるのは、31か条ある上訴の全文が伝わっているからです。
I:31か条もあるとは本格的な上訴だったんですね。
A:条文については羅列すると長くなるので割愛しますが、『光る君へ』で左大臣の源雅信(演・益岡徹)の「国司は勝手に民に重い税を課し、私服を肥やしておるのであろうか?」という台詞がざっくりではありますが集約しているように思えます。
I:そういえば、ほぼ同じ時期にこれも教科書でもおなじみの「受領は倒るるところに土をもつかめ」の信濃守藤原陳忠(のぶただ)もいましたね。
A:藤原陳忠のエピソードは『今昔物語』所収のものです。彼が認知の信濃から京へ戻る道中の峠で、馬とともに谷に転落したそうです。当然従者らは心配しますが、谷底から陳忠は「籠を降ろせ」と指示します。
I:その籠を引き上げると、ヒラタケがいっぱいだったというんですよね。「転んでもただでは起きない」という貪欲な受領の意識を今日に伝えるエピソードです。
【受領として地方に赴任することになる宣孝、為時の未来は? 次ページに続きます】