乾坤一擲

若き頃は、自分の生きる道、己のあるべき姿を思い描きながら、その目標を見失わないために格言、諺(ことわざ)、偉人たちが残した言葉などを心に抱き、日々の生活を送っていたように思います。

そうして、半世紀以上を経て、己の人生を振り返った時、かつて思い描いていた姿とはかけ離れているのかも……。しかし、人生折り返しと考えれば、新たな「あるべき姿」を描き、生きることもできるかと存じます。

そんな第二の人生のために、座右の銘とする言葉を持つのは如何でしょうか? 第1回の座右の銘にしたい言葉は「乾坤一擲(けんこんいってき)」です。

目次
「乾坤一擲」の意味とは?
「乾坤一擲」の由来
「乾坤一擲」を座右の銘としてスピーチするとしたら?
最後に

「乾坤一擲」の意味とは?

「乾坤一擲」について、『小学館デジタル大辞泉』では、「運命をかけて大勝負をすること。」と説明されています。

「乾坤一擲」に込められた意味は、この四文字の漢字からも感じ取れる通り、非常に強い決意と大胆な行動を象徴しています。「乾」とは天を、「坤」とは地を意味し、これら二つを合わせた「乾坤」は、宇宙や世界のすべて、あるいは全宇宙を指すことがあります。そこに「一擲」、つまり一投げ、一度の投げですべてを賭ける行為を加えることで、「すべてを賭けて、運命を決する一大行動を起こす」という深い意味を持つようになります。

「乾坤一擲」の由来

この言葉の由来を探ると、古代中国における数々の歴史的エピソードや文学作品に、その痕跡を見ることができます。中国唐の思想家であり、文人である韓愈(かんゆ)の『過鴻溝(かこうこう、鴻溝を過ぐ)』という漢詩に、以下のような記述があります。

誰勧君王回馬首(誰か君王に勧めて馬首を回らしむ)
真成一擲賭乾坤(真成に一擲 乾坤を賭す)

王よ 追えとは誰が言ったのか
さあ賽(さい)を振れ 天下を賭けて

紀元前200年代の漢国(王劉邦<りゅうほう>)と楚国(王項羽<こうう>)の戦い。長い戦いの末、お互いに苦しい状況であった両国は、「鴻溝」を境として、東西で分けようという講和条約が結ばれました。しかし、漢国が軍師である張良の進言により和睦の約束を破り、楚国を攻撃するという大きな勝負に出るのです。文字通り「天(乾)と地(坤)を投げる」ような、運命を賭けた大胆不敵な行為。そして漢王朝成立となります。

それからほぼ1000年。「鴻溝」を通過した韓愈が、この項羽と劉邦の戦いに思いを馳せて詠んだ詩です。ここから「乾坤一擲」という言葉は、あらゆる決断や選択、特に人生を大きく変える可能性があるものに対して、大胆に、そして、勇敢に取り組む姿勢を示す際に引用されるようになりました。

「乾坤一擲」を座右の銘としてスピーチするとしたら?

人生において、「乾坤一擲」の精神は、新たな挑戦に踏み出す際の強力な後押しとなり得ます。たとえば、キャリアの変革、新事業の立ち上げ、あるいは深い人間関係の構築など、重大な決断を迫られた時にこの言葉を思い出すことで、前進する勇気を得ることができるでしょう。

スピーチでは、この言葉を座右の銘に選んだ理由、そしてそれがどのように自身の人生観や行動を変えたのかを共有することで、聴衆にインスピレーションを与えることができます。また、人生の大きな節目で「乾坤一擲」の決断を下した経験談を交えることで、より深い共感を呼び起こすことが可能です。以下に、この座右の銘をスピーチに取り入れた際の例文を三つ紹介します。

1:変革の決意を語る場面でのスピーチ例

「私たちの人生には、『乾坤一擲』の瞬間が訪れます。それはすべてを賭け、新たな挑戦に踏み出す時、運命の一投を行う時です。私自身、この座右の銘を胸に、長年勤めた職を辞し、夢だった起業へとまさに『乾坤一擲の勝負』に出ました。不安と期待が交錯する中、一つの確信だけが私を支えていました。それは、すべてを賭ける価値のある挑戦が、本当の意味での成功への道だという信念です」

2:人生の教訓を共有する場面でのスピーチ例

「『乾坤一擲』という言葉は、私たちが大胆な選択を迫られた時、一つの指針となります。私はこの言葉を通じて、重要な決断を下す勇気を学びました。たとえば、家族のため、そして自分自身の成長のために、海外赴任を決断した時、この言葉が私の心を強く鼓舞しました。すべてが未知の中、『乾坤一擲』の精神は、私に大きな自信と勇気を与えてくれたのです」

3:挑戦への激励を伝える場面でのスピーチ例

「人生において『乾坤一擲の勝負』の場面は、予期せぬ形で訪れます。そんな時、私たちはどのように対応すべきでしょうか? 私はいつも、すべてを賭ける覚悟を持つことの大切さを、この座右の銘から学んでいます。新しいプロジェクトを始める時、あるいは人生の大きな転機に立たされた時、『乾坤一擲』の精神を持って前進しましょう。その一歩が、未来を切り開く鍵となるでしょう」

最後に

この言葉が持つ「すべてを賭ける」精神は、ただ単に大きなリスクを背負うという意味に留まらず、その決断や行動が自己の運命や人生の方向性を大きく変える可能性があるという覚悟を伴います。つまり、「乾坤一擲」は、人生の岐路に立った時、何か大きな変化を望む時、あるいは自己の限界に挑戦する時に、後悔しないよう全力を尽くすことの重要性を教えてくれる言葉です。

人生の中で何度か訪れるかもしれない大きな決断の瞬間に、この言葉を思い出してください。大胆な決断が必要な時、恐れずに一歩を踏み出すこと。それが人生を豊かにする鍵です。どのような結果になろうとも、その勇気と行動は決して無駄にはなりません。座右の銘「乾坤一擲」を持つことで、人生の新たな章を勇気を持って開く一助となれば幸いです。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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