老いた秀吉と家康の緊迫のやり取り
I:さて、朝鮮での戦いが難攻していたということで、秀吉の渡海を阻もうという動きが顕在化していたようです。
A:浅野長政(演・濱津隆之)が諫言する場面が描かれました。諫言していること自体は『常山紀談』という史料に記載されている逸話ですが、こういうのをしっかり入れてくるんですね! という印象です。「唐入り」の演出に関しては、けっこう力が入っている感じがしました。浅野長政は秀吉正室寧々(演・和久井映見)の妹を正室にしていますから秀吉とは相婿の関係。その浅野が秀吉に対して〈狐にとりつかれている〉というわけですから、「茶々=狐」をよっぽど強調したかったのでしょう。
I:家康(演・松本潤)と茶々(演・北川景子)がしんみりと語らう場面も登場しました。お市の方(演・北川景子)が家康の援軍を待っていたことを問います。〈母は最後まで家康殿の助けを待っておりました〉ときて、〈なぜ、来てくださらなかったのですか〉と畳みかけます。
A:そうかと思えば、〈時折無性に辛くなります。わが父と母を死なせたお方の妻であることが〉と泣き落としをかけてきましたね。
I:辛くて悲しい経験を経て今があるのですよね。それはわかっているのですが〈父上と思ってお慕い申し上げてもようございますか〉〈茶々はあなた様に守っていただきとうございます〉というのにはいささか「?」と思いました。
A: いつの間にか距離を詰めて家康の手を握って懇願していました。
I:そこに入ってきた阿茶局(演・松本若菜)が挨拶もそこそこに〈殿下に憑りついた狐がいるとの噂を耳にしました。わが殿も憑りつかれてはなりませぬゆえ、狐を見つけたら退治しようと〉まるで茶々が狐であるといわんばかりに言い放ちます。
A:茶々が狐で家康が狸、秀吉が猿ですから、魑魅魍魎とはまさにこのことっていうことを言いたいのですね。
I:後の江戸城大奥では、将軍と側室が同衾する際には「添い寝役」が側に侍って「監視」していたそうです。将軍が「狐に化かされる」のを防ぐという意味では、今回はそのルーツを描いたともいえそうですね(笑)。それにしても家康と秀吉のやり取りは緊迫していましたね。
異国の地に斃れた兵たちに思いを馳せる
I:本作では朝鮮の現地での合戦のシーンを一切出さずに台詞やナレーションで状況を説明する手法が取られました。
A:なぜかあまり違和感がありませんでしたね。序盤は勝ち戦が続いたけれども、徐々に難攻してくる。飢え死にした兵、凍え死んだ兵などたくさんいたんだと思います。異国の地で討ち死にした兵たちのことを考えると悲しくなりますね。
I:朝鮮出兵で亡くなった日本側、朝鮮側の兵たちに思いを馳せることはなかなかないのですが、ドラマの中で取り上げられた機会にいろいろ考えて見たいですね。さて、そうした中で茶々再懐妊の報が秀吉にもたらされます。
A:当時から「ほんとうに秀吉の子なのか?」と噂されたそうです。真偽のほどはわかりませんが、皆々驚いたのではないでしょうか。秀吉このとき56歳。
I:たくさんの側室を抱えていたにもかかわらず、懐妊したのが茶々だけというのが謎だったわけですね。真相は藪の中ですけど、実の父の名も当時から噂されていたようですね。
A:後の大坂の陣のキーパーソンの一人でもありますね。過去には伊丹十三さん、細川俊之さん、榎木孝明さん、武田真治さんなどが演じていますが、本作では玉山鉄二さんが演じます。
I:大野修理とも大野治長ともいわれる人物ですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり