晩年と栄達
治済は寛政3年(1791)、息子である徳川斉敦(なりあつ)に家督を譲って隠居しましたが、将軍・家斉の実父という立場から引き続き影響力を持ち続けました。晩年には従一位、准大臣に昇進し、その威勢は衰えることがありませんでした。
そのため、各方面から膨大な賄賂が贈られ、上屋敷は駿河台にありながら、隠居後は向島に瀟洒な下屋敷を構えるなど、驕奢な生活を楽しんだそうです。
文政10年(1827)に77歳で没し、法名「最樹院性体瑩徹大居士」として東叡山に葬られました。没後には、太政大臣の位が贈られています。

『名所江戸百景 水道橋駿河台 』著者:広重、出版者:魚栄、安政4年(1857)刊(国立国会図書館デジタルコレクション) https://dl.ndl.go.jp/pid/1312283 をトリミングして作成
2023年NHKドラマ10『大奥 Season2』で描かれた、一橋治済
2023年NHKドラマ10『大奥 Season2』(以下、『大奥』)で描かれた一橋治済は、物語の中でもひときわ注目を集めるキャラクターでした。このドラマは、よしながふみの同名漫画を原作に、「男女逆転」という斬新な設定で江戸時代を描いた作品。物語の舞台は、若い男子だけが感染し死に至る奇病「赤面疱瘡(せきめんほうそう、物語で描かれた奇病のこと)」によって社会が激変した日本です。
そんな背景の中で、一橋治済(演:仲間由紀恵)は冷徹な権力者として物語に大きな影響を与えます。彼女は8代将軍・吉宗の孫であり、一橋家の当主。一見、柔らかく上品な雰囲気をまとっていますが、その実態は非情で冷酷。己の権力を強固なものにするため、田沼意次や松平定信らに気づかれぬよう巧妙な謀略を巡らせ、我が子・家斉を将軍の座に据えようと画策します。
特にドラマでは、治済が自ら手を汚すことなく、巧みに周囲を操りながら邪魔者を排除していく姿が描かれ、視聴者を戦慄させました。
2025年NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』で描かれる、一橋治済
『べらぼう』で描かれる一橋治済(演:生田斗真)は、一見、人当たりがよく優しい雰囲気を漂わせる人物。しかし、その柔和な表情の裏側には、冷酷さと緻密な計算が見え隠れします。彼の目的はただ一つ、自身の地位を安泰なものとすること。そのためにはどんな謀略も辞さない治済の姿勢が、物語に緊張感をもたらすことでしょう。
まとめ
一橋治済は、一橋家の当主としてだけでなく、将軍の実父として幕府政治に影響を与えた人物です。田沼意次政権の崩壊や尊号事件など、江戸時代の歴史を彩る多くの出来事に関与しました。その生活は贅沢を極めつつも、幕府内外に大きな足跡を残したといえるでしょう。
※表記の年代と出来事には、諸説あります。
文/京都メディアライン
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引用・参考図書/
『世界大百科事典』(平凡社)
『日本大百科全書』(小学館)
『朝日日本歴史人物事典』(朝日新聞出版)
