はじめに-徳川家康の「三方ヶ原の戦い」とはどんな戦いだったのか
「三方ヶ原(みかたがはら)の戦い」とは、元亀3年(1572)12月、武田信玄と徳川家康が遠江国(現在の静岡県)三方ヶ原にて戦った合戦のことです。元々、信玄を含む反信長勢力による信長打倒のために勃発したとされるこの戦い。家康は、戦国最強と名高い武田軍に果敢に挑みますが、人生最大とも言える大敗北を喫してしまいます。
何度も討死しかけた家康は、この戦いで味わった屈辱を生涯忘れることはなかったそうです。「三河一向一揆」や「神君伊賀越え」に並ぶ、家康三大危機の一つ・「三方ヶ原の戦い」がどのような出来事だったのかについて、家康に焦点を当てて、解説していきます。
目次
はじめに―徳川家康の「三方ヶ原の戦い」とはどんな戦いだったのか
「三方ヶ原の戦い」はなぜ起こったのか
関わった人物
この戦いの内容と結果
三方ヶ原の戦い、その後
まとめ
「三方ヶ原の戦い」はなぜ起こったのか
甲斐国(現在の山梨県)の武田信玄は、越後国(現在の新潟県)の上杉謙信と何度も争っていました。しかし、永禄4年(1561)に勃発した「川中島の戦い」をきっかけに、信玄は戦略を変更することになります。
信玄は、それまで同盟関係にあった今川氏の領土である駿河国(現在の静岡県)の侵略を目論み、家康の治める三河国(現在の愛知県東部)や遠江国(とうとうみ=現在の静岡県西部)も狙いだしたのです。
一方、永禄3年(1560)の「桶狭間の戦い」にて今川義元が討たれた後、今川氏からの独立を果たした家康。敵対関係にあった信長と手を組み、その勢力を拡大していました。勢力を強めた信長や家康の存在は、信玄にとってはまさに目の上の瘤のようなもの。
邪魔で仕方がないと思っていた信玄でしたが、信長との関係が悪化した室町幕府15代将軍・足利義昭によって、信長討伐令が出されたという知らせを耳にします。これに浅井長政や朝倉義景などの戦国大名、石山本願寺などの反信長勢力が加わり、信長包囲網が完成したのです。
これを受け信玄は、東の北条氏と同盟を結び、万全を期して信長討伐に乗り出しました。そして、信長討伐に巻き込まれるような形で、家康は信玄と一戦を交えることとなったのです。
関わった人物
では、三方ヶ原の戦いに関わった主な人物についてご紹介します。
徳川方
・徳川家康
三河の小大名・松平氏に生まれ、幼年時代は隣国である駿河の大名・今川氏の人質となります。三方ヶ原の戦いでは、信玄の策略にはまり、人生最大とも言える大敗北を喫することに。
・本多忠勝
徳川四天王に数えられる家康の家臣。徳川軍と武田軍が鉢合わせた際には、殿(しんがり)として果敢に戦い、家康を避難させました。その勇猛ぶりから武田勢も感嘆し、「家康に過ぎたるものが二つあり、唐 (から) の頭 (かしら) に本多平八」という落書きが生まれたほどでした。
・夏目広次
三河一向一揆では家康に背きましたが、その罪を許されたことで、家康への恩義を生涯忘れなかったと言います。三方ヶ原の戦いでは、浜松城の留守居役を務めていましたが、家康を守るために出撃します。
・本多忠真
本多忠勝の叔父であり、育ての親。家康に対して強い忠誠心を持ち、三方ヶ原の戦いでは殿軍を務め、徳川軍を逃します。
武田方
・武田信玄
戦国最強と名高い、甲斐国の戦国大名。三方ヶ原の戦いでは、まだ戦の経験が少ない家康を翻弄し、決定的な敗北へと追い込みました。
この戦いの内容と結果
元亀3年(1572)10月3日、反信長勢力と手を組んだ信玄は、遠江国におよそ2万2千の兵を率いて侵攻。加えて山県昌景の別働隊3千が三河から遠江への援兵を阻んだため、家康は8千の兵で武田軍と対峙することになります。
家康を牽制するため、信玄は二俣(ふたまた)城を攻撃しました。これを知った家康は、家臣である本多忠勝に、武田軍の動向を探るように命じます。しかし、そこで武田軍本隊と鉢合わせてしまうのです(一言坂の戦い)。予想外の事態に驚いた家康は、撤退を余儀なくされます。忠勝と大久保忠世が殿となって戦ったこともあり、何とか無事に逃げ切ることが出来ました。ただ、その後も続いた二俣城への攻撃。家康は、支城である二俣城を死守するために抵抗を続けますが、結局武田軍に攻略されてしまいます。
「二俣城の次は、浜松城を狙うに違いない」と考えた家康は、浜松城に籠城することを決意します。この時、織田側からの援軍・佐久間信盛らが率いる3千の援軍を合わせても、武田軍の兵力には到底及ばず、籠城戦に持ち込んだ方が戦いやすかったからです。
「必ず攻めてくるだろう」と予測していた家康でしたが、またしても予想外の出来事が起こりました。浜松城へ向かっていたはずの武田軍が、突然進路を変更したのです。浜松城を無視するように通り過ぎていった武田軍に対し、家康は腹を立てました。
【三方ヶ原の戦いへ。次ページに続きます】