「あれ? なんて漢字だったっけ」と悩むことが多くなっていませんか? 少しだけ思い出す努力をしてみるものの、結局は「まあ、いいか」と諦めることもあったりして、記憶の衰えを実感することもあるのではないでしょうか? しかし、思い出すことが記憶力の鍛錬につながると言われています。
「脳トレ漢字」第143回は、「お櫃」をご紹介します。最近では使われる機会が減少してしまいましたが、実はとても優秀な機能を持つ入れ物なのです。実際に読み書きなどをして、漢字への造詣を深めてみてください。
「お櫃」は何とよむ?
「お櫃」の読み方をご存知でしょうか? 部首が木へんであることから、木に関係するものということはわかるのですが……
正解は……
「おひつ」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「ふたが上方に開く大型の箱。または、飯を入れる器。」と説明されています。
櫃とは、箱型の入れ物の総称です。衣服や日用品を入れて運ぶための長櫃(ながびつ)や、貴重品を入れておくための唐櫃(からびつ)などがあり、ここから転じて米櫃や飯櫃(めしびつ、いいびつ)などの言い方が生じるようになったと考えられています。
元々は箱型の容器という意味として使われていた「お櫃」ですが、いつしか「炊きあがったご飯を入れておくもの」という意味に変化していきました。また、非常に古い歴史を持っており、平安時代末期に成立した国語辞書『伊呂波字類抄(いろはじるいしょう)』には、ご飯を入れておく容器として、既にお櫃が使用されていたことがわかる記載も見られます。
中世以降になると、漆を塗られた冠婚葬祭用のものや、白木で作られた桶風のものなど、お櫃の種類も多種多様になっていきました。お櫃は木製のものが多いですが、夏は腐りやすいため、竹製のお櫃が使用されたそうです。
「お櫃」の漢字の由来は?
櫃という漢字は、ただの箱ではなく、ふたが付いた大きな箱を表しています。また、形がゆがんでいることを「いびつ」と言いますが、これは「飯櫃(いいびつ)」に由来する言葉です。
その昔、ご飯を入れる飯櫃は、円形ではなくゆがんだ楕円形でした。そのため、変わった形をしているという意味として「いいびつ」、つまり「いびつ」という言葉が使われるようになったと言われています(諸説あり)。
「お櫃」を使うのはもう古い?
お米を炊くのに釜が使用されていた頃は、お櫃は必需品であると考えられていました。釜で炊いたご飯は、そのままにしておくと焦げ付いたり、乾燥してパサパサになったりするからです。しかし、昭和30年代に電気炊飯器が開発されると、別の容器にご飯を移し替える必要がなくなり、お櫃が使用される機会は減少していきました。
残ったご飯を移し替える際、現在ではプラスチック製の容器やラップを使用することが多いですね。そのため、「今時お櫃を使うなんて、旅館くらいしかないのでは?」と思ってしまう方も多いかもしれません。しかし、お櫃を使うことで、いつも食べているご飯をより美味しくすることができるのです。
まず、木製のお櫃は吸水性に優れているため、温かいご飯を入れた時に余分な水分を吸収します。さらに、必要となれば水分を循環させるため、温め直しても、ご飯の美味しさは変わりません。また、断熱性があるお櫃は、保温性にも優れています。
食卓に一つあるだけで、毎日の食事が楽しくなるかもしれません。
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いかがでしたか? 今回の「お櫃」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 毎日食べるご飯は、より美味しくいただきたいものですね。ご飯の美味しさを長持ちさせる「お櫃」を使って、旅館気分を味わってみるのも良いかもしれません。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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