文/印南敦史
下戸の方はともかくも、酒好きにとって酒を飲むことは至福の喜びである。とはいえ、年を重ねるごとに酒に弱くなるのも事実。以前と同じように飲みながら「弱くなったなぁ……」と感じた経験を持つ方も少なくないはずだ(私も同じである)。
それは、「加齢による症状だから」と諦めるしかないのだろうか? だとしたら、この先は酒とどうつきあっていけばいいのだろうか? そもそも、加齢と飲酒にはどんな関係があるのか?
こうした疑問を解き明かすべく、『名医が教える飲酒の科学 一生健康で飲むための必修講義』(葉石かおり 著、浅部伸一 監修、日経BP)の著者は久里浜医療センター院長の樋口進氏に話を聞いている。年を重ねると酒が弱くなるのは、気のせいではなく本当なのかと。
残念ながら、樋口氏によればそれは本当であるようだ。原因は、大きく2つあるのだという。
「ひとつは加齢によって肝臓の機能が落ち、アルコールを分解するスピードが遅くなるからです。そうすると、同じ量を飲んだとしても、若い頃よりアルコールの血中濃度が高くなってしまうわけです。若い頃と同じ酒量を飲んで、翌日お酒が残っていると感じるのはそのためです」(本書74ページより)
つまりは加齢に伴って、肝臓も年をとっていくということだ。具体的なデータはないものの、アルコールの分解速度がいちばん高いのは30代で、以後は徐々に処理能力が落ちていくと考えられるらしい。
「2つ目の理由は、体内の水分量の低下です。ご存じのように、人間の体内の水分比率は、赤ちゃんの頃は80%と非常に高いのですが、加齢とともに下がっていきます。そして高齢者になると50%台になってしまいます。アルコールを飲めば体内の水分の中に溶け込むわけですが、体内の水分量が少なくなると、アルコールを溶かす対象の量が減るわけですから、血中のアルコール濃度が高くなりやすいのです」(本書74〜75ページより)
なるほど、これも非常にわかりやすい話だ。若いころにくらべれば少量でも酔えるのだから経済的だと考えることもできなくはないが、こういう話を聞いてしまうと不安が募るのも事実だろう。
また、アルコールを摂取することによって脱水が進みやすいことにも注意が必要であるようだ。
「アルコールには抗利尿ホルモンの分泌を抑制する作用があります。つまり、利尿作用により、尿の量が増えるわけです。高齢者はもともと体内水分量が少ないところに、アルコールを飲んでしまうと、さらに脱水が進み、血中アルコール濃度がより高くなってしまいます」(本書76ページより)
年を重ねても気分は昔のままである場合が多いだけに、つい無茶をしてしまいがちかもしれない。だが、酒を飲んでも水分補給にはならず、逆に脱水を引き起こす源因になるということは意識しておきたいところだ。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。