文・絵/牧野良幸

松本零士さんが亡くなった。『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』など、松本零士のアニメにはロマンがあった。

そこで今回は松本零士さんをしのんで『元祖大四畳半大物語』を取り上げる。これは松本零士さんの同名の漫画を映画化した作品で、アニメではなく実写の映画だ。

タイトル中の「四畳半」という言葉に、こちらこそ松本零士を連想する人も多いだろう。今や『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』で有名な松本零士だが、僕としては松本零士と言えば、四畳半での貧乏暮らしを描いた『男おいどん』が思い出深い。『男おいどん』は高校生の時に単行本を全巻そろえて愛読していたほどだ。他に全巻そろえていたのは『あしたのジョー』くらいである。

映画の原作となった『元祖大四畳半大物語』は、『男おいどん』よりも先に漫画雑誌に連載をしていて『男おいどん』の原型となった作品。僕も当時ちらっと読んだ記憶があるが『男おいどん』より成人向けの内容だった気がする。当時の青年誌は少年誌で育った10代の青年(ややこしい)にはまだ入りずらいところがあったのだ。

さて『元祖大四畳半大物語』。映画の制作は1980年である。監督は曽根中生と松本零士の二人。

主人公の足立太を演じるのは山口洋司。新人だったそうだが漫画とそっくりの顔つき、体つきだ。これだけでも原作や『男おいどん』が好きな人はワクワクするだろう。

足立太は働きながら予備校に通い、いずれは大学に入学することを夢見て九州から上京した。下宿は本郷にある古い木造アパート。部屋は四畳半だ。現代ではなかなか見ることのない四畳半一間のアパートだが、当時はこれが普通だった。ちなみに僕も『男おいどん』の影響で四畳半生活に憧れてしまい、大阪の大学を選んで下宿生活をした。漫画の影響力は大きかったのだ。

映画に戻ろう。

足立太が就職先の会社に行くと会社はつぶれていた。足立太はラーメン屋でバイトをしながら貧乏生活を始める。

向かいの部屋に住んでいるのがヤクザのジュリー。演じているのは歌手の前川清だ。曽根中生監督の自伝本によると、監督は前川清の寅さん風でとぼけたヤクザを評価していたようだ。

ジュリーと同棲しているジュンに篠ひろ子。僕と同世代の方なら人気テレビドラマ『時間ですよ』の姿が印象深いはずだ。この映画でも篠ひろ子は色っぽい。松本零士の漫画に登場する美女は独特の美しさなので、似ている女優さんを探すのが大変だと思うのだが、篠ひろ子の起用もぴったりだと思った。鋭く涼しげな目つきは漫画の美女そのものだ。

他にも大家のバアさん(原泉)とじいさん(若宮大佑)も漫画どおりの雰囲気だ。これで主要な登場人物のキャスティングはぴったりハマった。主人公たちが漫画のように話し動いているのを見るだけでファンとしては嬉しい。

足立太の四畳半にはお約束のパンツが散らかっている。足立太はインキンタムシに悩んでいるので、いつも股をかいている。警察官にも注意されたが、

「インキンの薬を買う金があれば、何か食うわい」

と九州男児の心意気を見せる。これこれ、『男おいどん』にもあったペーソスが随所に実写化されている。

でも高校生の時漫画を読んで下宿生活に憧れた僕も、インキンタムシにだけはなりたくないと思った。それは今映画を見ても同じ感想だ。サルマタケという押入れのパンツの山に生えるキノコも現実には見たくない。

漫画では主人公と美女との関係が最も重要なところだった。純粋だけどモテない男。それを分かってくれる美女が必ずあらわれるのだ。

この映画でもジュンはなにかと足立太に優しい。のみならず足立太と体を重ねる。それも一回だけではない。足立太がジュンの裸の写真(ジュリーが商売にしようとして撮った)に欲情しているのをかわいそうに思い、またも体を重ねる。

足立太の女性関係はジュンだけではない。バイトをしていた電気屋の娘(松本ちえこ)も足立太に迫ってきて関係を持つ。なんだか足立太は『男おいどん』の主人公大山昇太よりモテていると思う。『元祖大四畳半大物語』の原作が青年誌への連載だったから、こういうストーリーなのだろう。ここは足立太のモテ期を素直に喜びたい。

でもジュンが「あなたは大物になるわ」と言ってくれるわりには、足立太の未来は一向に開けない。今日も屋台で飲んだくれて泣きくずれる足立太。

「おいどんは無限の可能性を秘めた希望のかたまりと思うこともあるし、落伍者と思うこともある。おいどん、どぎゃんすりゃよかとね?!」

劇中に流れる加藤登紀子の主題歌「止まらない汽車」が哀愁を重ねる。舞台は1980年頃なのに1960年代の東京かと思うような古さが画面に漂う。この映画には昭和の時代に昭和の映画人が作った良さがある。1980年に映画化しておいてくれてありがとうと松本零士さん、そして製作者の方に感謝したい。

【今日の面白すぎる日本映画】
『元祖大四畳半大物語』
1980年
上映時間:97分
監督:松本零士、曽根中生
脚本:熊谷禄朗、曽根中生
出演:山口洋司、前川清、篠ひろ子、ほか
音楽:大野真澄
主題歌:「止まらない汽車」(歌:加藤登紀子)

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。ホームページ http://mackie.jp

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