豊橋市図書館で昭和30年代から所蔵していた『松平記』が、4代吉田藩主・松平忠房(1619~1700)の直筆であるとともに、数ある『松平記』の写本の中でも、最古級のものと考えられることがわかりました。今回見つかった写本には、忠房による研究の痕跡が見られ、江戸時代における家康研究の先駆けと言えます。また、これまでに見つかっている写本には見られない記述が多数存在しており、松平清康(家康の祖父)や広忠(家康の父)の頃の松平家の真実に迫ることができる資料です。

裏表紙にある印から、忠房が所蔵していたものと分かった。

家康の祖父・清康の暗殺から、家康の妻・築山殿の自害までのさまざまな事件を年代順にまとめた『松平記』

松平忠房は、『大日本史』を編纂した水戸徳川家の徳川光圀と並ぶ歴史通として知られる人物です。多くの書物を収集するとともに、自らも歴史書の編纂を行いました。

江戸時代に記された徳川家康や徳川家、松平家に係る歴史をまとめた書物は、家康を神格化したり、筆者の家柄や立場を有利にするため、徳川家との近しい間柄を主張する内容が脚色されたものが多いほか、書物の写本を作成する過程でも同様に脚色を繰り返し、事実がわからなくなっています。

『松平記』は、家康の祖父・清康の暗殺から、家康の妻・築山殿の自害までのさまざまな事件を年代順にまとめた資料で、同種の書物の中でも比較的事実に近いことが書かれている資料として、歴史研究の中でも多く使用されてきました。全国に30点程度の写本が残っていることが確認されていますが、オリジナルの原本は見つかっておらず、年代が確実にわかる最古の写本は1688年に作成されたものとされています。

今回確認された忠房直筆の写本は、忠房が歴史研究を行っていた1650~70年頃に記されたものと考えられ、数ある写本の中でも最古級ものと推定されます。

写本は、古ければ古いほど脚色が少なく、オリジナルの原本に近い記述がされていると考えられますが、最古級の成立である忠房直筆の写本ですら、家康の父広忠に過度に敬意を払う表現が付け加えられているなど、すでに明らかな加筆が認められます。

また、家康の祖父・清康の死から、家康の父・広忠が岡崎城を奪還するまでの間に、他の『松平記』には無い記述が集中しており、家康以前の松平家の実像にも迫ることができる資料として期待できます。

松平記、本文。大久保の記載がある。
大久保部分のアップ

忠房の写本には、本文中の余白に朱書きが多く記されています。朱書きの多くは「大久保」の文字から書き始められていることがわかります。これは、『松平記』と並ぶ徳川創業期の資料『三河物語』の著者・大久保彦左衛門忠教を指すと考えられます。つまり、「大久保の書物(『三河物語』)ではこのように書いている」といったような分析が記述されており、忠房は自身が写本した『松平記』と、『三河物語』の記述を比較検討し、家康や徳川家、松平家の歴史を研究していたことがわかります。

他にも、忠房の家の家系図を記し、『松平記』に記載されている出来事が、自身の何代前の先祖の頃の出来事だったか、分析している様子もうかがえます。

忠房の朱書きで特筆すべきは、これらの記述が家康を神格化するでもなく、自身の家と徳川家との近しい間柄を証明するような記述をするでもなく、淡々と分析を重ねていることです。忠房は、一人の家康研究者として、『松平記』を読み込んでいたと考えられます。

今回確認された『松平記』は、現存する最古級のものであるにも関わらず、他の写本には見られない表現の加筆が多くみられます。全国各地に残る『松平記』と、今回の『松平記』をさらに比較研究していくことで、家康や徳川家、松平家について新たな事実が判明することを期待します。

【関連イベント】
豊橋市中央図書館で開催している資料展で今回の『松平記』を追加展示します。
「若き家康 奮闘の軌跡―重臣酒井忠次・東三河の国衆と過ごした日々―」
開催期間 3月26日(日)まで
開催場所 豊橋市中央図書館(豊橋市羽根井町48)

 

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