「毒殺!?」描写は因果応報の仏教説話?

義時に煎じ薬をすすめるのえ(演・菊地凛子)。(C)NHK

I:さて、泰時からりくさんの話を聞く流れで、義時が倒れます。のえ(演・菊地凛子)が薬草を煎じたものを飲ませていましたが、ちょっとびっくりしました。

A:義時が弱ったところで、泰時が〈新しい世を作るのは私です〉と宣言しました。〈父上は考えが古すぎます〉とまで言い切りましたが、いまでもいろんな会社で同じようなやり取りがあるんだろうなとも思いました。

I:その泰時が西の御家人に睨みをきかすために京へ行くことになります。六波羅探題の誕生ですね。

A:こちらも代々北条家の人間が世襲していきます。執権に連署に六波羅探題、そのほかもろもろ北条家の権力はどんどん増していきます。

I:今週の最終回はなんだか盛りだくさんな内容です。運慶(演・相島一之)が造像した義時に似せたという仏像のおぞましい御姿が衝撃的ですらありました。

A:この場面を見て、「因果応報」という言葉が浮かびました。「嗚呼!」という感じですね。運慶の〈さあ、自分の目でよくみるんだ。悪に染まった人間の成れの果てを〉という言葉が胸に響きます。まるで仏教説話を見ているようでした。

I:ここで倒れた義時ですが、医師は「アサの毒」でじわじわ体が蝕まれていたという見立てでしたが、のえと義時のやり取りは戦慄が走りました。〈あら、ばれちゃった〉などと、なんと恐ろしいことでしょうか。

A:その毒を誰が調達したのか、それもまた衝撃的な流れでしたが、その直後に、政子と実衣(演・宮澤エマ)のちょっと笑えるやり取りが始まります。この絶妙な緩急は中毒性があって、「ああ、来週からもう見られないんだな」という感情と重なって不思議な寂寥感に襲われましたね。

I:劇中ののえは、史書では「伊賀の方」と称される女性ですが、当時から義時の死は、伊賀の方による毒殺という噂が流れていたようです。

A:ちょうど1年前に、山本みなみさんという新進気鋭の研究者の著書『史伝 北条義時』を読んで、「なるほど」と思ったのですが、1年間『鎌倉殿の13人』を見続けてきた段階で読み直すと、理解がより深まりました。義時の死についてはかなりの紙幅を割いていますので圧巻でした。

I:『吾妻鏡』の病死説から『明月記』の毒殺説など、新史料も駆使しての論述はスリリングでした。そして、またも三浦義村の登場ですが、ほんとうに許せない男です。私もついつい感情的になって義村のことを見てしまいました。

A:私はここで〈おなごは皆きのこが好きだ〉というのはガセネタだったという告白が妙にツボにはまりました。なんていいかげんなやつなんだって。

物語は、衝撃のクライマックスへ

I:そして物語はいよいよクライマックスに突入です。のえさんにじわじわと毒を盛られていた義時がいよいよ弱ってから政子と対峙するシーンです。

A:義時は後鳥羽上皇を島流しにした大悪人、政子は身内を追いやって尼将軍にのぼりつめた希代の悪女ということでした。〈これからは争いのない世がやってくる。だからどう思われようと気にしない〉という台詞が印象的でした。後の歴史を知っている立場からは「ほんとうに争いのない世がやってきましたか?」と突っ込みたい気分にもなりました。

I:この最後の最後でさらに衝撃が走りました。〈頼朝さまが亡くなってから何人が死んでいったか〉と義時が自問自答します。梶原景時、阿野全成、比企能員、仁田忠常、源頼家、畠山重忠、平賀朝雅、稲毛重成、和田義盛、源実朝、源仲章、公暁、阿野時元……。

A:ここ、衝撃的でした。『鎌倉殿の13人』の「13」という数字は、頼朝が亡くなった後に鎌倉殿を継いだ頼家の政権を補佐する目的で招集された合議制の構成メンバーということでしたが、最終回に来て、義時によってほんとうの意味が明かされました。

I:「消された13人」だったんですね。確かに衝撃的でした。そして、ここで政子が頼家の死の真相を知ることになる。なんという恐ろしい展開なのでしょう。政子は義時に頼家の死の真相を白状させます。

A:この直後の政子の行動についてですが、似たような光景があることを以前、看護職の方に聞いたことがあって、それを思い出しました。「入院している夫、見舞に来た妻」という場面です。寝たきりの夫がサイドテーブルにある水に手を伸ばそうとすると、妻はわざと、手の届かない場所に水を移動させるというのです。最後の最後にささやかに復讐するという構図です。

I:確かに義時はやり過ぎました。前述のように因果応報というラストになりました。

A:このラストを見て、1年間一度も見逃すことなく「視聴率100%以上」だからこそ味わえる高揚感に包まれました。そして、暗黒なキャラクターでも大河ドラマの主役として成立するという「新境地」に立ち会えたことをうれしく思います。

I:脚本の素晴らしさに加えて、役作りに必死になって取り組む俳優陣、そして熱意あふれる演出スタッフ。「三位一体」が成立したことで生み出された奇跡なのかもしれないですね。

A:そして、それを裏でしっかり支える美術スタッフの存在も忘れてはいけません。壮大なるエンターテインメントである大河ドラマはやはりこうでなくてはならない、というまさに「王道大河」でした。

三谷幸喜さんにさらなる苦行

I:作者である三谷幸喜さんはこれまで『新選組!』『真田丸』ときて本作で3作目の大河ドラマ脚本でした。これまでの62作の大河ドラマの中で、最多登場は、『草燃える』『春の波涛』『炎立つ』『元禄繚乱』と4作の脚本を担当した中島丈博さんです。

A:ということは、三谷幸喜さんにはまだまだ活躍いただく余地があるということですね。三谷さんの場合、幕末→戦国→鎌倉と時代がどんどんさかのぼってきています。ということは、次回作は、大河史上もっとも古い時代という期待が高まるのではないでしょうか。

I:これまでのもっとも古い時代を扱った大河ドラマは1976年の『風と雲と虹と』です。それより古い時代となると奈良時代も視野に入ってきます。その時代を扱うとなると三谷さんに苦行を強いることにはなりませんか?

A:苦行?  確かにそうかもしれません。でも苦行の先には光り輝く道が拓かれるような気がしています。通常よりも時間を取り、「オールNHK」で取り組んだら実現できるのではないでしょうか。

I:NHK大阪で『大化改新』『大仏開眼』『聖徳太子』などで古い時代を描いた知見がありますしね。なんだかすごいドラマが誕生するような予感がします。

A:それはともかく、『鎌倉殿の13人』。一年間楽しませていただいたことに謝意を表し、そして、この「満喫リポート」の読者の方々にも御礼を言いたいと思います。ありがとうございました!

義時にきのこの秘密を打ち明ける義村(右/演・山本耕史)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。

●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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