ライターI(以下I):阿野時元(演・森優作)の謀反に関与したとして捕らえられていた実衣(演・宮澤エマ)が、前週のみすぼらしい姿から復活しました。
編集者A(以下A):先日、宮澤喜一元首相ともお付き合いのあった元官僚の方と話をしていたら、実衣のことを「宮澤総理のお孫さんが頑張っている」といっていました。もうすっかり俳優としての存在感が確立しているので、「元総理のお孫さん」ということをすっかり忘れていました(笑)。
I:時房(演・瀬戸康史)が〈尼副将軍ですね〉といっていたのがおかしかったです(笑)。それにしても、実衣に〈私を殺せといったでしょう……、首をはねろといったでしょう〉と問われた義時(演・小栗旬)がしらばっくれていました。
A:物語の前半で、頼朝(演・大泉洋)が〈嘘も誠心誠意つけばまことになる〉という台詞を発していたのを思い出しました。義時は、まさにその台詞を体現したのでしょう。
I:誠心誠意って感じでもなかったですけどね。まあ、権力者が「シロ」といえば、「クロ」も「シロ」になる世界ですから……。
源頼政の孫の頼茂があっという間に鎮圧される
I:さて、京都では、源頼茂(演・井上ミョンジュ)という武将が内裏に立て籠もったという場面がありました。
A:慈円(演:山寺宏一)が〈あの者は源氏のはしくれ〉と表現していましたが、頼茂は治承4年(1180)の以仁王の令旨にいち早く共鳴して挙兵した源頼政の孫。〈はしくれ〉というのは、頼朝らの系統を「主」とした表現ですね。頼朝と頼茂の共通の先祖は、源満仲。満仲の子息頼光が頼茂に至り、同じく頼信の子孫が頼朝。頼光、頼信兄弟はともに藤原道長に仕えた武士。再来年の大河ドラマ『光る君へ』に登場するかもしれませんね。
I:長沼宗政(演・清水伸)が義時に対して、「火事で家を失った人々に炊き出しを」と要請しましたが、義時は〈政所を通せ〉〈そんなことまで私を頼るな〉といらだちを顕わにしました。
A:本作での長沼宗政は完全に脇役ですが、名門小山家の次男です。子孫も信長、秀吉の時代まで歴史の荒波を潜り抜けます。皆川姓になっていた子孫の皆川広照は、茶の湯にも造詣の深い武将でした。
I:このころの武士たちの子孫は戦国時代にいたるまでたくさんいますよね。公暁を討ち取るのに活躍したと『吾妻鏡』に記された長尾定景の流れは、坂東のみならず越後まで広がり戦国時代の長尾景虎、つまり後の上杉謙信まで脈々とつながるんですよね。
A:歴史はほんとうに深いですね。さて、義時ですが、三浦義村(演・山本耕史)に〈前は誰彼かまわず頼みを聞いてやっていた。立場は人を変えるな〉といわれてしまいました。ヒールになった義時ですが、この場面は義時に同情的に見ました。今や幕府の最高実力者なんですから、若い時と同じようにいろいろいわれても……ですよね。
I:それはそうですけれども、権力が人格を変えるというのはやはりあります。地位に応じて貫禄がつく人、権力を手にしたがために残念な人に成り下がる人、フリーランスの私から見ると、組織や人間ってほんとうに面白い。大人はともかく子どもたちは、本作からそうしたことも学んでほしいですね(笑)。
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