後鳥羽上皇はほんとうは何に怒ったのか?

A:源頼茂が内裏に立て籠もったことで、宜陽殿(ぎようでん)や校書殿(きょうしょでん)など内裏の建物が焼失しました。そのため、後鳥羽上皇(演・尾上松也)は内裏の修復を御家人らの寄進に委ねようと画策します。ところが、義時はそれを「否」とする。それに対して、長沼宗政らが〈俺たち上皇様とはもめたくないんだよ〉と泰時(演・坂口健太郎)に不満をぶちまけます。この時代の坂東の武士たちの意識をさりげなく挿入してきた印象です。

I:保元の乱を描いた『保元物語』、平治の乱を描いた『平治物語』、源平合戦を中心に平家の盛衰を描いた『平家物語』と並び称される『承久記』では、三浦胤義は上皇らに対して、「上皇が院宣を発して義時追討を呼びかければ、北条に味方をするものは千人もいない」という趣旨の発言をしたと伝えられています。『鎌倉殿の13人』では例によって、三浦義村が京にいる弟の三浦胤義(演・岸田タツヤ)と連携しているかのような描写がありましたが、あるいはそんなこともあったのかもしれません。実際に胤義が、上皇にいろいろ吹き込んだのは事実なんでしょう。本作ではあまりその絡みはありませんでしたが、胤義は源頼家(演・金子大地)亡き後、その側室だった女性を正室に迎えていたともいわれています。頼家の最期のことを思えば、「北条憎し」という思いが強かったのだと思います。

I:胤義の発言もそうですし、三浦義村の考えもそうですが、大半の御家人は〈上皇様ともめたくないんだよ〉という長沼宗政と同様の考えであるという見立てに基づいていますね。劇中では〈兄が申すには、御家人たちの中には義時に見切りをつけ、上皇様のお情けにすがろうという者が大勢いるとのことです〉と言っていました。

義時憎しの後鳥羽上皇(演・尾上松也)。(C)NHK

小池栄子=北条政子の「歴史的名場面」は子供に見てほしい

A:さて、そういう流れの中で、後鳥羽上皇が「北条義時追討の院宣」を発します。ここで登場するのが北条政子(演・小池栄子)。私はずいぶん前から小池栄子さんによる「演説シーン」を楽しみにしていました。時に凛として、時にコミカルに、本作の北条政子の佇まいに惹きつけられたり、にこりとしたり、楽しませてもらいました。でもそれもこれもすべて、今週の演説への序章に過ぎなかったわけです。

I:後鳥羽上皇が北条義時追討の院宣を出した際に、御家人を集めて行なった演説ですね。『吾妻鏡』には、その内容が記録されています。劇中で政子が言いかけた「山よりも高く、海よりも深し」ですね。劇中では、それを途中でやめて自分の言葉で演説を続けます。

A:承久の乱に際しての「政子の演説」は、桶狭間の合戦の際に信長が舞った「敦盛」、本能寺の変、赤穂浪士の討ち入り、江戸城での西郷隆盛、勝海舟の会談などと同様に「歴史を動かした名場面」だと思います。

I:演説シーンが「名場面」になっていること、尼将軍という実質的な政権トップが女性だったということなど、ほんとうに歴史名場面ですね。

A:尼将軍というのは、ざっくりいえば、女性首相のようなもの。初代鎌倉殿頼朝の正室というバックボーンがあるとはいえ、言葉を以て御家人たちの心を突き動かしたという事実は重いです。小池さんが熱演したこのシーン、子供たちにこそ見てほしい場面でした。

I:わが国の憲政史上、まだ女性首相は出ていません。「政子の演説」のように言葉で人々の心を突き動かす。そんな政治家が早くでてきてほしいなあ、なんて思ったりもしました。

A:「政子の演説」の場面、「小池栄子さんありがとう!」という思いを禁じ得ません。最高でした。この場面を見て、なぜか、2003年の朝ドラ『こころ』で小池栄子さんが演じた船宿の山本投網子を思い出しました。あれから約20年。俳優として研鑽を積んでこられたんだなと、ちょっとジーンときました。

I:そして、この「歴史的な名場面」が登場したところで、「つづく」になりました。

A:次週、承久の乱の回が最終回になります。「え、あと1回しかないの?」」「もう終わり?」……いろいろな思いがよぎります。そうした中で12月7日に小栗旬さん、坂口健太郎さん、実朝役の柿澤勇人さん、頼家役の金子大地さん、八重さん役の新垣結衣さん、江間次郎役の芹澤興人さん、そして善児役の梶原善さんが参加したファンミーティングが開かれました。司会が源範頼役の迫田孝也さんという豪華バージョンです。

I:実はこうしたファンミーティングは各地で40回以上開催されたそうです。演者の生の声を聞く貴重な機会。関係者の方々は大変だったと思いますが、こうした催しを積極的にやってくれるのはうれしいですよね。

A:今となっては懐かしい八重さんの「当時」の心境など、興味深く拝聴しました。

I:オーケストラとコーラスによるテーマ曲の生演奏はしびれましたよ。

A:しかしなんといっても、ファンミーティングでも関心の的は最終回で義時がどうなるか? ということでしたね。静かに、心して待ちたいと思います。

残すところ2回というタイミングで緊急開催された『鎌倉殿の13人』ファンミーティング。4万5000通以上の応募があり、抽選の倍率は31倍だった。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。

●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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