ライターI(以下I):後鳥羽上皇(演・尾上松也)が内裏の修繕を幕府に依頼する案を考えつきます。
編集者A(以下A):本作における後鳥羽上皇について、どう捉えるか――。現状掴みかねています。今後、義時(演・小栗旬)と激しく対立していく気配がするのですが、従来の考え方では、後鳥羽上皇の反幕府の行動は決して肯定的に捉えられていません。
I:むしろ、武家政権をしっかりと確立した義時を持ち上げる史観の方が主流のような気もします。
A:本作では、回を追うにつれて権力の亡者になっていく義時の姿が描かれています。私見ですが、義時を主人公に設定した段階では、ここまで想定していなかったのではないかと感じています。作者が取材をしていろいろ調べを尽くしてみたら、どうも「義時って、権力の亡者らしい」となった。主人公だけどダークな姿をそのまま描いていいのだろうか、という葛藤があったのかもしれません。それでも、主人公だからといって不自然に美化することなく、作者の感じたままに描いている。これは凄いことではないでしょうか。
I:まさに、「大河愛」を感じます。この流れの中で、「義時善玉」にしていたらあれ? となっていたかもしれませんよね。
A:主人公なのに闇という設定を可とした制作陣、そしてこの難役に果敢に挑んでいる小栗旬さんに敬意を表したいと思います。
「和田謀反」の事件も仕組まれたのか?
I:そうした中で、御家人有志が和田義盛(演・横田栄司)のもとに集っていることが、義時を刺激することになります。時房(演・瀬戸康史)が〈このところ、不満を持つ御家人の旗頭のようになっていますね〉なんていうものですから、嫉妬心がふつふつと湧き上がっているのではないでしょうか。
A:冒頭の後鳥羽上皇の場面は建暦2年(1212)春の設定でした。そして、場面は建暦3年(1213)2月に転じて、泉親衡という御家人が登場します。信濃の御家人ということですが、記録によれば、この泉親衡と安念法師という僧が頼家遺児を擁立したというストーリーですが……。なんか怪しくないですか?
I:あ、1212年春から1213年2月に転じたということで、誰かが何かを仕込むには十分な時間があったのでは、ということですね?
A:そうです。『鎌倉殿の13人』のち密な流れに沿って考えると、すべて義時が描いた絵図通りになっているような気がしてきました。それもこれも、鎌倉殿実朝(演・柿澤勇人)と昵懇(じっこん)の間柄になった義盛が煙たくなったからと思ったのですが……。
I:和田義盛を失脚させる材料が突如出て来ましたから、怪しく感じるのもムリはありません。義時が〈泉親衡、聞かぬ名だな〉と言ったり、大江広元(演・栗原英雄)と〈西からの雅な臭いが〉ということで、後鳥羽上皇が仕組んだのでは? と疑ってみせました。
A:義時だろうか、上皇だろうかとやきもきするような展開にしてくるのは作者のうまいところ。そう思っていたら、ナレーションが〈多くの謎に包まれた男。突然現れ、御家人たちをそそのかし、突然消えた〉と言うや、その直後に源仲章(演・生田斗真)が不敵な笑みを浮かべました。なんと泉親衡の正体が源仲章だったとは。
I:まさに予測不能のエンターテインメント! しかも、後鳥羽上皇サイドの策謀だったとみせかけて、義時も怪しいと思わせる展開だと感じました。いわば二重スパイ疑惑。そんなこんなで、義盛のふたりの息子は許しますが、甥の胤長(演・細川岳)だけは許さない。〈もっとも頼りになるものがもっとも恐ろしい。消えてもらうか〉と言い放ち、大江広元も同調しました。
A:やっぱり義時も怪しい(笑)。
【ひげの集団、三浦義村、そして少女の死。次ページに続きます】