I(ライターI):物語が源実朝(演・柿澤勇人)と公暁(演・寛一郎)の暗闘をめぐる最終盤に差し掛かるタイミングで、主人公の北条義時を演じる小栗旬さんの取材会が行なわれました。
A(編集者A):5月に放送された『プロフェッショナル仕事の流儀』で和田義盛役の横田栄司さんが語っていた言葉が映像とともに今も耳にこびりついています。横田さんによると、小栗さんはリハーサル含め、立つ時も座る時も手を使わない所作を心がけ、実践していたそうです。番組では横田さんの証言通りの映像も流れましたが、とても美しい所作でした。「大河ドラマの主人公」の重みと、その大役に挑む役者の矜持を目の当たりにした思いがしたものです。
I:私は、和田義盛のファンということもあって、特にドラマの後半は「アンチ北条義時」という感じでしたが、小栗さんの義時の演技に接して、「憎らしいけどうまい」とうなっていたものです。
A:かつて昭和の大横綱北の湖は強すぎて、「憎らしいほど強い」と称されました。まさに「小栗義時」は大横綱のたたずまいだったと言えるのでしょう。
I:さて、それでは小栗さんの肉声をお届けしたいと思います。まずは、北条義時をどのような人物ととらえているのでしょうか。
僕は義時のことを詳しくは知らなかったし、もう少し歴史を学んでいる人にとっても、承久の乱で名前が出てくるくらいの人物だったと思うんです。『吾妻鏡』を見ていても、悪者のように描かれている部分もありますし、実際、やってきていることは悪者なのかもしれないですが、『鎌倉殿の13人』を経て、新たに孤独な男だったというイメージで受け取ってもらえるようになったかなと思います。前半、明るく真っすぐだった彼を見せて、後半、本当はそこから何も変わっていないのに、執権とはこう振る舞わなければならないという彼の中での大きな矛盾とともに突き進まなければならないという状況が、北条義時をおもしろい人間像に築き上げることができたんじゃないかと思っています
A:小栗さんが言うように物語前半と後半の義時はまるで「他人」であるかの如くでした。
I:前半は、頼朝の言動に対して、小栗さんが「全部大泉のせい」というフレーズを発信して話題になりましたが、後半は「全部小栗のせい」という展開になりました。それに対する小栗さんの見解が目を引きます。
最終回までに、義時が悪いやつだという風に視聴者が不快に思うようになっていくわけです。前半、「全部大泉のせい」だったのが後半になって「全部小栗のせい」になっていますが、こんな痛快なことはないですね(笑)。最後の最後までいって、トレンドワードに「おなごはみんなきのこ好き」が入ってくれればいいなと思います。小四郎をみんなが気持ち悪いと思ってもらえるのがむしろ嬉しいです。たぶん義時はもともとストーカー気質なんですよね。北条義時を好きだ、と言われることのない主人公って、ある意味いいですよね。気持ち悪い義時から怖い義時へ徐々にシフトしていきますが、そんな義時を演じられて良かったです
I:画面で見る限り、なかなかに難しい役どころだと感じていたので、それを楽しみながら演じていたと聞いて、少しホッとしました。
【小栗旬が語る、三浦義村と北条政子。次ページに続きます】