小栗旬が語る、三浦義村と北条政子
A:ドラマの最終盤では、義時と政子(演・小池栄子)、義時と三浦義村(演・山本耕史)の関係がどうなっていくのか気になっていました。このまま共闘していくのか、決裂するのか。歴史の流れは変わらないはずなのに、ここが気になってくるという「絶妙な脚本のせい」で、最後の最後まで気の抜けない展開です。
I:まずは、小栗さんの「義村評」からどうぞ。
義村ってなかなかつかみどころがない人物ですが、基本的には絶対に自分を裏切ることがない男と信じていましたね。あの鎌倉の世界では、うまく立ち回れば生き残れる、死んでしまったらおしまいという義村の考え方は、非常に理解はできるものです。義時は幼い頃からともに生きてきた義村を信頼しているし、いくつになっても幼馴染という関係性は抜けないんですね
A:孤独な義時ながら、頼朝死後に姉の政子と「共闘宣言」してからは特に、政子は欠かせない存在になっていました。続いて、小栗さんの「政子評」です。
政子が頼朝と結婚したことで、北条の人たちはみんな人生が変わってしまいました。そこには思うところありなんですが、義時としては、ずっと一緒に過ごしているのに、いいことはいい、悪いことは悪いという基準が変わっていない政子はやはり守りたい存在なんです。あくまでこのドラマの中での話ですが、そういう純粋さを持つ政子と、自分の昔を見ているかのような息子の泰時というふたりを、最後の最後まで義時は守りたいと思っている。そこが肝だった気がしますね。小池栄子さんと坂口健太郎くんが、それを真っすぐに演じてくれていました
I:さらに小栗さんは、政子を演じた小池栄子さんと、三浦義村を演じた山本耕史さんにこんな言葉を発してくれました。
今回は共演者に助けられたことがたくさんありました。特に耕史さんや栄子ちゃんはすごくしっかりしたリアクションをとってくれるので助かりました。自分の中で大きくしてキャラクターを見せる必要がなくて、旬くんならこうするだろうなというのをふたりともとてもよく理解した上で、的確に自分のキャラクターを表現するためのリアクションをとってくれるということが現場で多々ありました。そういう相手とお芝居をすると、無理をしなくていいんだなと思わされるんですよ。耕史さんとの現場ではそれをすごく感じました。彼自身もおもしろい芝居をされるけれど、義時というキャラクターが今、自分の目にどういう風に映っていて、視聴者の目にはどう映っているのか、自分がどんなリアクションをすれば義時がどう映るのかまで理解して演じてくださる俳優さんなので、非常に救われたなと感謝しています
「座長小栗」を育てた日本最高峰ドラマの世界
I:小池栄子さんと山本耕史さんに対する小栗さんの言葉を聞くと、きっといい現場だったんだろうなぁ、と容易に想像がついて嬉しくなります。大河ドラマという長丁場のドラマでは、主役が座長視されることが多いようですが、小栗さんはこんなことも語ってくれました。
主役をやるとどうしても座長とか言われますが、『鎌倉殿の13人』では 、チーフ演出の吉田照幸という監督が作る現場の雰囲気が、風通しがよくみんなが意見を言える現場だったことが大きいです。あんまり自分から率先して特に何かしなくても、楽しく過ごさせていただきました
A:吉田照幸さんという人は、ドラマの制作を追っかけた『100カメ』という番組でメロンパンとカレーパンを間違えて買ってしまった方ですよね。私たちはあの場面を「ずっとドラマのことばっかり考えているから」と結論づけましたが、今後もこの吉田さんには注目していきたいですね。
I:小栗さんは謙遜していますが、頼家役の金子大地さん、畠山重忠役の中川大志さんなどのインタビューを通じて、ごくごく自然体に若い俳優さんたちをサポートしていることも明かされてきました。もしかしたら、小栗さんも若いころに当時のベテラン俳優にサポートされていたのかと思って聞いてみました。
中二の時に『秀吉』(96年)で石田三成の子供時代を演じました。秀吉役の竹中直人さんがめちゃめちゃよくしてくれたんです。そんなに出番がたくさんあったわけではないのですが、声をかけてくださったり、気にかけていただいたりしました。こんな自分にもこんなにもよくしてくれたという実体験が自分の中で骨になっていった。何年か経ってから竹中さんに挨拶した際に「でかくなったな」と言ってくれたのも嬉しかったですね
A:なんか、すごくいい話ですよね。大河ドラマという日本では最高峰の現場で、子役や若手のことを気にかけて育てていくという「襷(たすき)」がつながれていく。そして、本作のような良質なドラマを視聴した子どもたちからも次代のスターが出て来るような気がするのですよね。
I:脚本を書かれた三谷幸喜さんも少年の時に「自分ならこうする」と考えながら大河ドラマを見ていたと言います。そんな子供たちに向けてのメッセージも聞いてみました。
子供だけでなく全員に共通して言えることではありますが、やっぱり歴史って大切ですよね。大河ドラマにもそれぞれの作品で毛色やテーマ、見せたい表現が違うと思いますが、今回は鎌倉という時代を舞台にしながら、エンターテイメント性の高い作品でした。受け止めやすい作品になっていたと思いますが、これを機に、皆さんがこの時代に思いを馳せるようになってくれたら嬉しいです。ドラマを見ているお子さんたちが新しい歴史の扉を開いてくれたらいいなと思います
A:「自分も将来小栗さんのような演技をしたいと思うようになる子供がいたとしたら、なんと声をかけますか」とも聞いてみました。即答で〈よしなさい、いばらの道だよと言ってあげたいです(笑)〉という答えでした。ああ、深いなぁと感じ入りました。
I:三谷さんの大河愛もさることながら、小栗さんの作品にかける情熱もすごいですね。さてさて、小栗さんがほのめかしていた義時の最期は、どんなものになるんでしょうか。小栗さんはこんなふうに語っています。
全編48回を通して、僕が偉そうに言うのもなんですが、本当に神がかっていたんじゃないかというくらい、毎回毎回、読むのが楽しい脚本でした。最終回をああいう風に終えてくれたのもすごい。三谷さんは大河ドラマを本当に愛しているんだなというラストになっています
A:これはほんとうに楽しみでしょうがない。ラストは絶対ハンカチなしでは見られない回になると思います。
I:楽しみですけど、ロスも怖いです(涙)。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ.歴史班』一乗谷かおり