ライターI(以下I):終盤に突入して、小栗旬さん演じる北条義時のやり方に納得できない方が増えているのではないでしょうか。
編集者A(以下A):権力者の孤独と苦悩を感じる人もいるのかもしれません。壇ノ浦合戦の後に海岸を歩く義時の表情がなんともいえない雰囲気を醸していましたが、終盤にきて、義時の表情に以前にもまして、心揺さぶられる思いがしています。例えば、前々話に実朝(演・柿澤勇人)と和田義盛(演・横田栄司)が双六をやろうと盛り上がった後で、たったひとりで双六の盤と向きあっているときの表情、そして、前話の義盛を討った後の切ない表情……。台詞なしでもその苦悩が伝わってくる様で、惹きこまれています。
I:私は和田義盛が好きなので、どうしてもアンチ義時になってしまいますが、小栗さんの表情が絶妙なのは認めます。それがあまりにもはまっているから義盛ファンは悔しいんですよ。
A:激しく感情移入できるほど、面白くてスリリングな展開だということですよね。さて、冒頭で鎌倉殿実朝の枕元に後鳥羽上皇(演・尾上松也)が登場しました。ドラマの前半では源頼朝(演・大泉洋)の枕元に後白河院(演・西田敏行)が頻繁に現れていましたから、なんだか懐かしく感じます。
I:こういう場面を荒唐無稽ととるか、それとも「中世世界」をしっかり描こうとしているととらえるか。私は後者を取りたいと思います。約800年前の人々が夢などに敏感だったのは事実ですし。きっと実朝の夢枕には後鳥羽上皇が頻繁に登場していたことでしょう。
政子の弟というだけの男だったのに
I:さて、泰時(演・坂口健太郎)と実朝のやり取りがなんともなんともいい場面に感じました。なんだかしびれますね。
A:義時が〈お前はどういう立場でそこにいるのか〉と問いただします。それに対する泰時の言葉が〈父上が義理の弟というだけのことで、頼朝さまのお側にお仕えしていたのと同じです〉ですって。そういわれればその通り。膝を打ちたくなる言葉でした。ただ、それ以上に義時には、頼朝が気に入った要素があるはずなのですが、外野からみれば、「御台所政子の弟というだけで」という思いはあったでしょうね。妬(ねた)み嫉(そね)みの類になりますが、歴史上、この感情ほど厄介なものはありません。
I:妬み嫉みの感情は、現代でも悩ましい問題ですからね。ただ、当時の御家人たちも「弟というだけの奴が」と思っていたのでしょうね。
【実朝が夢見た大船での渡航。次ページに続きます】