文/鈴木拓也
SNSで、美しい星空写真をよく見かけるようになった。
投稿している人の大半は、アマチュアの写真愛好家だ。
「地上の風物の背景に、天の川が映える写真なんて、プロ写真家でなければ無理だろう」と、思っていたのだが、カメラの進化が星空撮影への敷居をぐっと下げているのだ。
最近は、スマホのカメラも「夜景モード」が備わるようになり、まさに誰でも星空写真が撮れる時代が到来……といっても、美しく撮るには知識もコツも多少は要る。
そこで今回は、筆者おすすめの指南書『魅せる星空撮影術』(インプレス)から、星空撮影の基本のきを幾つか紹介しよう。
山と星空の画面割合を意識する
まずは、難易度も低い定番から。下の作例は、かぐろい山並みの上に大きく星空を写したもの。
著者で自然写真家の田中達也さんは、次の解説を加えている。
このシチュエーションでは、おおいぬ座の明るいシリウス以外に目立つ星も少なく、いささか地味な星空でした。そこで流れてくる雲を入れて、単調な星空に動感変化を持たせています。雲は低空に発生する綿雲で、稜線近くではオレンジ色のナトリウム灯が雲を照らしています。これも色添えとして画面を盛り上げています。
撮影時は、星空にばかり注意が向きがちだが、山並みにも目を向ける。稜線が、変化に乏しい緩やか過ぎるものだと物足りないので、「ギザギザとした変化のある山並み」を選ぶようにする。そして、写真の中で山が占める割合を2~3割に抑えれば、星空が主題となってわかりやすい。山の比率がこれより高いと主題がわかりにくくなるが、逆に山と星空の割合を7対3にすれば意外性があると、田中さんはアドバイスする。
この写真の設定は、絞り(F値)が2.2、シャッター速度が25秒となっている。絞りの値はかなり低いが、暗い夜空を撮るには、絞りを低く設定できる「明るい」レンズが有利。これに関して田中さんは、「開放F値がF2.8からF4.0クラスのレンズ」が適していると説明している。最近は、割安な標準ズームレンズでも、開放F値がこれぐらい低い製品が出ているので、チェックしておきたい。
シャッター速度も、夜空は暗いという同じ理由から、どうしても長秒露光になる。よって三脚は必須の機材になる。また、カメラのブレ防止機能と長秒時のノイズリダクションの設定はオフにして、連続撮影ができるようにしておくのも忘れずに。
天の川をきれいに撮るためのポイント
雄大な天の川の写真は、星空撮影を志す人なら、ぜひチャレンジしたい主題であろう。
天の川を撮るには、一つ大きなハードルがある。それは、地上の照明(光害)が、天の川のクリアな撮影の邪魔になることだ。田中さんが撮った下の作例は、光害が少ない奄美大島で撮影したもの。緯度の低さも相まって、本州では見ることのできない南天の星空になっている。
このようなパーフェクトな写真を追求するのであれば、離島や標高のある山から撮ることになる。ただし、そこまで行かなくても「ぼんやりでも天の川が目視できれば、撮影する価値はある」という。写真だと、目で見るよりも暗い星まで驚くほどはっきりと写り、必要に応じレタッチのテクニックでカバーできるからだ。
また、カメラの設定にも幾つかポイントがある。まず、ピント合わせは、オートでなくマニュアルで。ピント位置を無限遠(∞)の位置に合わせ、(ファインダーでなく)ライブビューの画面上で明るい星を画面に入れ、ライブビューの拡大機能を使い、星が点像になるよう、慎重かつ精確にピントを合わせる。ピントが合ったら、ピントリングをテープで固定。
ISO感度は、1600~3200が天の川を撮影するのに適している。空が明るければISO感度は低めに、暗ければISO感度も高めになる。絞りについては、初心者はF2.8~4.0がおすすめ。シャッター速度は、レンズの焦点距離によって異なる。これは、500÷焦点距離で求められ、例えば24mmの焦点距離であれば、500÷24=20.8秒となる。本書には、もう少し上級者向けのテクニックも解説されているが、これくらいにしておこう。
スーパームーンはこうして撮る
「スーパームーン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
これは、月が満月の状態で、地球に最も近づいたときの月の呼び名。このときは、いつもの満月よりもひときわ月が大きく見える。これをさらに大きく見せる撮り方についても解説されている。
スーパームーンを撮るには望遠系のレンズを用いる。構図については、スーパームーンと比較対象となる前景が必要となる。前景としては、「ビルなどの建造物や遠くの木々、山の稜線といった地上風景」がすすめられている。さらに、風景の奥やビルの陰から大きな月が昇ってくるという見せ場づくりが重要だとも。
よって、撮影のタイミングとしては、月の出直後がベスト。このとき気をつけたいのは、オートフォーカスで撮影した場合、地上の風景に露出が合ってしまい、月が白飛びしてしまうリスク。白飛びしたら、露出補正でマイナスに補正して暗くするか、マニュアルで露出を設定する。
月の写真は、それだけで一つのジャンルとなるような大きなテーマ。本書でも、スーパームーンにとどまらず、中秋の名月、三日月、月食など、様々な月の撮り方が、ガイドされている。
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筆者も時々写真を嗜むが、「星空の撮影は上級者向けなので、最後にとっておこう」という気持ちでいた。しかし、本書の解説を読むと、「上級者でなくては無理」というわけでもなく、明晩からでも撮りに行きたい気分にさせてくれる。未経験でも星空写真に興味がある方なら、本書はとても役立つ1冊になるだろう。
【今日の教養を高める1冊】
『魅せる星空撮影術』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。