取材・文/柿川鮎子

夏の暑さも峠を越えて、そろそろ愛犬の秋の健康診断の季節がやってきました。動物病院から愛犬へ健診のお知らせがきたものの、春にやったばかりでちょっと億劫な気がします。今回は愛犬の健康診断に関する疑問を高田馬場動物病院 by アニホックの院長高木大先生に聞きました。

軽度の異常を見つけることが可能になる

――まず健康診断ですが、やっぱり受けた方がいいのでしょうか?

高木先生 基本的に6歳以下の若い子で、明らかに日常生活で健康に問題ないと飼い主さんが判断されたら、健康診断を受ける必要はないかもしれません。

「なぜ犬に健康診断が必要なの?」とよく聞かれます。愛犬の健診も基本的に人間と同じです。本人も周りの家族も健康に問題が無いと思っていても、健康診断を受診したら、実はいろいろな病気の兆候が見つかって驚いた、というケースは案外多いもの。

愛犬でも同じです。特に動物は多少の体調不良を隠してしまう習性があるので、毎日接している飼い主さんでも異変に全く気がつかないこともあります。隠れている不健康な状態を、健康診断で見つけよう、というのが健診の目的です。

以前のケースで、健診で腎不全が進んでいるのが見つかった子がいました。飼い主さんに聞いてみると、「そういえば、水を飲む量が多かった気がする」と言われました。健康診断で異常が見つかる前は、異常と感じていなかったのです。健診の数値で異常が明らかになって、初めて気づく飼い主さんは多いですね。

治療の選択肢が多くなるケースも

高木先生 健診を受ける大きな理由は「軽症なうちに病気を見つける」ことです。初期の段階だと、治療方法も多く、愛犬の負担がぐんと軽くなります。軽症であればサプリメントなどから治療を開始することが可能で、愛犬のストレスも減ります。

先程の腎臓病のケースでも、初期の軽症な状態であれば、皮下点滴やサプリメントなどで治療することができます。中期から後期の重い腎臓病になってしまうと、完治は難しく、入院して点滴して、家に帰ってもまたすぐ入院、となってしまうことが多いのです。

症状が悪化してから、急に入院となると、経済的な負担も重くなり、飼い主さんの精神的なダメージも大きくなってしまいます。「うちの子は何となく腎臓の数値が良くない」というように、ある程度、愛犬の状態がわかっている段階で何らかの手を打つ方が、ゆっくり、そしてしっかりと治療ができます。

健康状態のデータが役に立つ

高木先生 もうひとつ、健康診断は基本的に病気でない時に行うものなので、健康な子の状態を知ることができるメリットがあります。人間と同じで愛犬でもある程度の個体差があります。それをあらかじめ知っておけば異常かそうでないかを判断しやすくなります。

また、異常かどうかを判断する時も、これまでどんな数値を出していたかを知っておけば、その後の治療の役に立つことが多いです。

――春と秋の両方のお知らせが来るのですが、冬の空いている時期だとダメですか?

高木先生 犬は1年で4歳ずつ歳をとると考えられています。人間に換算すれば、春と秋の2度の健診でも、2年に1度の計算となります。

もちろん、飼い主さんの都合で、健診を受けるのは冬や夏でも大丈夫ですが、愛犬の身体の負担を考えて、春と秋が推奨されています。私自身は人間と同じように年に1度のレベルで受診してほしいと思っています。

年4回のシーズンごとだと、人の年1度のレベルになるので、安心できますね。

愛犬の健康診断で調べていることは?

高木先生 健診では大まかに4つの検査を行います。

1)血液検査
貧血、肝臓、腎臓、膵臓のチェックです。必要があればホルモンの検査もします。甲状腺や副腎などのホルモンの出かたを検査することがあります。

2)レントゲン
胸やお腹の中の状態を調べます。心臓など臓器が大きいか、胸の中にしこりがあるかなどを調べます。

3)エコー
こちらもお腹や心臓の状態を調べます。しこりの有無や臓器の大きさ・構造などを診たり、心臓の動きと機能を検査します。正常な動きをしていて、血液をきちんと出しているかを確認します。血液検査で正常でも動きなどが正常でないと、心臓弁膜症の疑いがあります。

4)尿検査、糞便検査
存在菌の増殖、バランスが崩れているかを診ます。基本的に健康診断では体調が良い時に診ているので、後でお腹を壊してしまった時に役立つデータでもあります。

健康診断にかかる時間は、受診したい検査によって異なります。血液検査だけであれば、その場でお待ちいただいて、すぐにお知らせすることも可能です。上記の4つを一通り調べたい場合は午前中にお預かりして、午後にお帰りという形がうちの病院では多いです。

予約はおそらくどこの動物病院でも必要だと思いますので、あらかじめ電話で予約を入れて、注意事項を聞いておくといいでしょう。

賢い健康診断のポイントその1

うちの子の状態を先生に伝えておく

――せっかく健康診断を受診するのであれば、賢く受けたいと思います。ポイントを教えてください。

高木先生 健康診断は愛犬と飼い主さんのためとはいえ、どちらもストレスを感じてしまうと思います。ストレスを軽減するためのポイントをあげてみましょう。

レントゲン検査では少し動かないでじっとしてもらう必要があります。健診前には過去のカルテなどを確認して、その子の状態を調べておきますが、最近になって急に関節が悪いとか、抑えられると心臓に負担がかかってしまうような子は、事前に担当の獣医師に伝えてください。

うちの病院では、そういった子は寝かせないで立った状態でレントゲンを撮影して、なるべく犬の負担の無い様に配慮しています。

賢い健康診断のポイントその2

トリミングは健診の後で

高木先生 エコーの検査の時に、機械の滑りを良くするためのゼリーやアルコールを使って検査をします。その時、少し被毛が汚れてしまうことがあるので、トリミングはできれば健診の後の方がありがたいです。

トリミング直後で毛がふわふわに立ってしまうと、検査がとてもしにくくなります。毛が寝る状態の方が検査しやすいので、シャンプーやカットは健診の後に行う方がいいでしょう。

賢い健康診断のポイントその3

検査の時間によってはフードを持参

高木先生 一般的に、朝の食事は食べず、絶食で来院していただきます。腎臓の数値や血糖値、コレステロールなど、食事後に数値が変わる検査があるからです。

血液検査だけの場合などは、すぐに飼い主さんと一緒に帰れますが、エコーやレントゲンなどが入ると、午前中に予約をとって愛犬をお預かりして、検査後に飼い主さんがお迎えに来ていただくというスケジュールとなります。

検査をした後、家に帰るまでの時間が長いと、愛犬たちのお腹が空いてしまいます。検査後にごはんを食べさせてくれる病院では、うちで食べるフードを持参して愛犬と一緒に預けておきましょう。ただ、こういったサービスをしてくれるかどうかは、病院によって異なるので、事前に聞いておくといいでしょう。

賢い健康診断のポイントその4

急な変更など直前のトラブルを伝えておく

高木先生 健診の朝、急に愛犬が下痢をしてしまったりすると、どうしたらよいか不安になってしまいますね。健康診断は「普段の健康状態を診る」のが目的でもあるので、もし下痢など体調不良だったら、その日は健診ではなく、診察そして治療となります。

健診の朝も普段通りにお散歩をしてから来院となりますが、先日、飼い主さんがいつも通りに散歩後のおやつをうっかり与えてしまったという場合がありました。そんな時は担当の先生に正直に言ってください。健診の予定を変更するか、とりあえず糞便検査だけするなど、病院も柔軟に対応してくれるでしょう。

糞尿検査もうっかり忘れてしまったら、後日それだけを行うことも可能です。急な変更や、直前のトラブルなどは、病院に伝えておくことが大切です。

賢い健康診断のポイントその5

料金はあらかじめ聞いておく

高木先生 健診の料金は検査の内容によって異なりますが、うちの病院では血液検査だけだと5000円ぐらいからとなります。あとはエコー、レントゲン、糞便検査などの一般的な検診で1万~2万円前後。ホルモン検査などを入れるとプラス5000円ぐらいです。

人間に比べると保険の適用が無い愛犬の健診は、高いと感じてしまうかもしれません。あらかじめ大体の料金の目安を予約の時に聞いておくといいと思います。カードや電子マネーに対応されていない病院もあるので、その点も知っておくと安心ですね。

おおまかな検査表の見方を知っておこう

――健診後、先生からいろいろお話を聞くのですが、いつも「早く帰りたい」と焦ってしまい、検査票がよくわかりません。簡潔に教えてください。

高木先生 よくわかります! うちの病院ではすぐに帰りたい時は後でお話だけすることもできるので言ってください。電話で伝えることも可能です。

健康診断が終わると、こうしたデータを渡されることと思います。

高木先生 左側に肝臓や筋肉、膵臓などと書かれているので、だいたい何がどう異常なのかがわかると思います。

説明を加えると、左側の筋肉とは、筋肉が破壊されたときに出てくる酵素です。そのためこの数値が高いと筋肉内に腫瘍ができた時や心臓の筋肉が破壊されているといった病気が考えられます。

リンは高値だと腎疾患や腫瘍、上皮小体機能亢進症など、低値では上皮小体機能低下症、副甲状腺機能亢進症といった病気が疑われます。

電解質ではナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)などを測定しています。ナトリウムによって体内の血圧維持や水分量を調整していますが、腎臓の機能が弱ると、水分量の調整、ナトリウム濃度の調整が難しくなり数値の異常が出てしまいます。

血球検査は、ウイルス性疾患、感染症に罹っているかや、貧血、脱水、ストレスが多いか少ないかなどを調べる検査です。HGBが少ないと言われた子は貧血の疑いがあります。

「いっぱいあってよくわからない」という飼い主さんは、腎臓、肝臓、貧血の値を気にかけておくといいでしょう。腎臓や肝臓の病気以外でもこれらの数値が変動することが多いです。例えば猫の甲状腺機能亢進症などではホルモンの数値以外に肝臓の数値が高くなるため、そこから気付くこともあります。

気楽に受ければ愛犬もストレスゼロに

高木先生 いろいろお話しましたが、愛犬の健康診断というと、病気なんて絶対に見つかってほしくないという気持ちの反面、少しの異常でもしっかり見つけたいという、とても複雑な気持ちをお持ちだと思います。何となくモヤモヤしていて、不安になる気持はよくわかります。「怖くて不安になるから健診を受けたくない」と言われる飼い主さんもたまにいらっしゃいます。

こうした気持ちは、誰もが同じだと私は思います。だからぜひ、前向きに「見つかったらそのとき」という気持ちをもって、あまり気負わず、健診を受けていただきたいと私は思っています。

定期健診で愛犬が動物病院やスタッフに慣れておくと、治療の時もストレスが軽減されるメリットもあります。6歳を過ぎたら人間の定期健診と同じように、定期的に行う習慣にしてほしいですね。

獣医師・高木 大(たかぎ だい)先生

高田馬場動物病院 by アニホック院長、2016年、麻布大学卒業、2020年、動物病院勤務兼、日本獣医生命科学大学・全科研修医勤務、22年8月から現職。

高田馬場動物病院 by アニホック:東京都新宿区高田馬場2-8-26、興和ビルディングB1F-1F
病院URL:https://anihoc-group.com/hospitals/takadanobaba/

取材・文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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