せつ(若狭局)

せつは比企能員の娘です。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、源頼家の長男・一幡を産む、比企一族の気高き娘(演:山谷花純)として描かれます。

比企能員の娘であるせつは、史実では「若狭局」の名で知られます。父の政略により2代目将軍・頼家と結ばれ、建久9年(1198)に一幡を産みました。これにより、父・能員は将軍の母方の親戚である「外戚」として大きな権力を持つようになります。

ただ、夫である頼家の愛情は、せつではなく、源氏の血を引く娘・つつじ(辻殿)に向かっていきます。頼家の正妻として迎えられたつつじは、男児・公暁を出産。一幡と公暁という2人の跡取りが存在する状況で、せつはつつじにライバル心を燃やしていました。

そんな中で頼家が病に倒れたことをきっかけに、権限を奪ったのが北条氏でした。建仁3年(1203)、北条時政との対立にて「比企能員の変」が起こり、父・能員は暗殺されます。残された比企一族は一幡を抱え、屋敷に立て篭もりますが、北条軍により屋敷に火が放たれ滅亡を迎えました。

せつは、この際一幡とともに焼死したと伝わっていますが、逃げ延びた先で追手に刺殺されたとする説もあります。そして夫・頼家も建仁4年(1204)、幽閉されていた伊豆・修善寺で北条氏による刺客によって暗殺されたのでした。

比奈(姫の前)

比奈は、北条家に対立している比企家の一族の娘で、比企能員の姪にあたる女性です。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、権力闘争を繰り広げる北条と比企の間を懸命につなぐ人物(演:堀田真由)として描かれます。

能員とその妻・道は、比奈を頼朝の側女にすれば、比企家の地位がより盤石なものになると画策。頼朝自身も若く美しい比奈を気に入りますが、政子の手前もあり、比奈を義時の妻にと提案しました。この時、義時は前妻・八重を亡くして失意の中におり、頼朝のこの提案は義時を励ます狙いもあったとされます。

再婚をためらう義時でしたが、頼朝は彼に「離縁しない」という起請文を書かせて2人の間を取り持ちました。2人はやがて心を通わせ、子宝にも恵まれます。しかし、のちに北条家と比企家は権力闘争により激しく対立。比企家の一族でありながら、北条家の妻である比奈は、両家の間で苦悩したのでした。その後、比企氏の乱の後、義時と離縁し、鎌倉を去ることになります。

まとめ

北条家と激しい対立の末、悲運な最期を迎える比企家。政略的な意図から取り計らわれた結婚や生涯が多いのは確かですが、彼女たちの振る舞いからは、夫や我が子、そして一族への深い愛が感じられます。こうした女性らの活躍もまた、歴史を形作る重要な要素と言えるのではないでしょうか。

文/トヨダリコ(京都メディアライン)
肖像画/もぱ(京都メディアライン)
アニメーション/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『⽇本⼤百科全書』(⼩学館)
『世界⼤百科事典』(平凡社)
『国史⼤辞典』(吉川弘⽂館)

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