はじめに-源頼朝に関係する人々

源氏と平氏との熾烈な戦いが繰り広げられた源平合戦。その戦いに勝ち、幕府を開く人物が、言わずと知れた源頼朝です。では、彼はどのような人々に支えられ、激動の時代を駆け抜けていったのでしょうか。今回は、頼朝の最初の妻である八重や、頼朝の異母弟、叔父など、源頼朝に関係する人々を紹介していきます。

目次
はじめにー源頼朝に関係する人々
各人物の紹介
まとめ

各人物の紹介

ここからは、八重、源行家、阿野全成、源範頼、義円を取り上げ、紹介していきます。

八重

八重(やえ)は、伊東祐親(すけちか)の三女にあたる人物です。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、北条義時の初恋の人にして、源頼朝最初の妻(演:新垣結衣)として描かれます。

父である伊東祐親は、平氏に仕え、配流となった頼朝の監視役を担った人物です。平治元年(1159)に起こった平治の乱の後、当時14歳であった頼朝は伊豆へと配流されました。

『曽我物語』が伝えるところによると、承安2年(1172)頃、祐親が大番役で上洛している間に、頼朝は八重と密通し、千鶴という男児を一人もうけたとされています。つまり、八重は流人時代に結ばれた、頼朝の最初の妻なのです。

京より戻った祐親はこれに激怒し、八重を他家に嫁がせ、千鶴を殺してしまいました。さらに祐親が頼朝も亡き者にしようとしたため、彼は北条時政の屋敷に逃亡します。そこで北条政子と出会い、二人は結ばれたのでした。

一方、八重は、安元元年(1175)頃に、祐親の家人・江間次郎のもとに再嫁しました。彼女についての史料は少なく、確かなことはわかっていません。ただ、平家方の豪族の娘として生まれながら、敵方である源頼朝と恋に落ちた彼女の生涯は悲運なものだったと推察されます。

源行家

源行家(ゆきいえ)は、源為義(ためよし)の十男にあたる平安末期の武将です。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、頼朝の叔父で、源氏のプリンスたちを操る野心家(演:杉本哲太)として描かれます。

行家は、治承4年(1180)5月に挙兵した以仁王(もちひとおう)の令旨を諸国源氏に伝え、挙兵を促した人物だといわれています。また、以仁王、頼政が敗北すると、尾張、三河などで兵を結集し、平氏と戦いました。

その後、鎌倉の頼朝に所領を求めたものの認められず、やがて行家は木曽義仲(よしなか)と結びました。寿永2年(1183)に、義仲とともに平氏西走後の京都に入りますが、義仲と対立するに至り、紀伊に退きました。

平氏滅亡後は頼朝と不和となった源義経に味方し、頼朝追討の宣旨を得ることとなります。自ら出陣した頼朝に対して、西海に赴こうと義経と摂津大物浦(だいもつのうら=現在の兵庫県尼崎市)を発ちますが、大風にあって遭難し、和泉に身を隠しました。しかし翌年、幕府の討手に攻められ、文治2年(1186)に追討されたのでした。

阿野全成

阿野全成(あのぜんじょう)は、源義朝(よしとも)の子にあたる鎌倉初期の人物です。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、頼朝の弟で、僧として北条の栄枯盛衰を見つめる者(演:新納慎也)として描かれます。

全成は、義経の兄であり、頼朝の異母弟でもあります。父・義朝が平治の乱にて敗死した後、全成は京都の醍醐寺(だいごじ)に入って僧となりました。その後の治承4年(1180)、兄・源頼朝挙兵のことを知ると、10月には下総国鷲沼(=現在の千葉県習志野市)の宿に兄を訪れ、頼朝を感激させました。

のち駿河国阿野(=現在の静岡県沼津市の西方か)に住み、阿野冠者(あののかじゃ)と称したとされています。北条時政の娘・阿波局(あわのつぼね)を妻としていましたが、建仁3年(1203)5月に謀反の疑いありとして二代目将軍・頼家により逮捕されて殺されてしまいます。ついでその子・頼全(らいぜん)も京都で殺されたのでした。

源範頼

源範頼(のりより)は、源義朝の六男にあたる鎌倉初期の武将です。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、頼朝の弟で、愚直に源氏を支える努力の武将(演:迫田孝也)として描かれます。

三河国蒲御厨(かばのみくりや)に生まれたので「蒲冠者(かばのかんじゃ)」と呼ばれました。兄・頼朝が平氏追討の兵をあげると、彼に属してその部将となります。

寿永3年(1184)、弟・義経とともに京都占領中の源義仲(よしなか)を京都で倒しました。ついで一ノ谷にて平氏を討ち、三河守に任ぜられたのでした。その後、平氏追討のため中国から九州に遠征、平氏滅亡後も九州の経営に当たります。

範頼は、頼朝・義経の衝突、義経の運命をみて、頼朝に対して努めて従順な態度を取りました。しかし、頼朝は彼を疑い、建久4年(1193)8月、これを捕らえて伊豆修禅寺(しゅぜんじ)に幽したのでした。その後の記録は存在しませんが、配流直後に誅殺されたと推測されています。

義円

義円(ぎえん)は、源義朝の子にあたる、平安時代後期の僧です。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、頼朝の異母弟で、後白河法皇の皇子の坊官(演:成河)として描かれます。

義円は、阿野全成と源義経と同じ母を持ちます。つまり、義経の兄であり、頼朝の異母弟にあたります。平治の乱で父・義朝が敗れると、母とともに捕えられましたが、平清盛によって助命されます。そして、出家し、円恵法親王(えんけいほっしんのう)に仕える僧となったのでした。

治承4年(1180)に、兄・頼朝が伊豆にて平氏討伐のために挙兵すると、これに合流。翌養和元年(1181)3月、追討の平家軍が東下すると、迎撃するために叔父・行家と尾張国墨俣川(すのまたがわ=現在の岐阜県長良川)に陣をかまえましたが、無謀な夜襲を仕掛けたために討ち取られ、27歳で亡くなりました。

まとめ

頼朝と血縁関係を持ち、彼の挙兵にともない共に戦った、異母弟や叔父といった「源氏」一門。いずれも戦いの中で命を落とすか、謀反の疑いをかけられて、悲劇的な最期を迎えています。彼の最初の妻となった八重も含めて、頼朝の周りの人物に目を向けると、普段とは一味違った歴史が楽しめるのではないでしょうか。

文/豊田莉子(京都メディアライン)
肖像画/もぱ(京都メディアライン)
アニメーション/鈴木菜々絵(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com

引用・参考図書/
『⽇本⼤百科全書』(⼩学館)
『世界⼤百科事典』(平凡社)
『国史⼤辞典』(吉川弘⽂館)

 

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